「ユズ、どこ行ってたんですか? 遅いから教室まで捜しに行っちゃいました」
「ハ、ハル……」

 ハルの指先が動き、キリッという音とともに、さらに刃が押し出される。
 聖亜はこぶしを振り上げた状態のまま震えていて、冷や汗を流している。

「もうめんどくさいから、ここでやっちゃいましょうか?」

 にこやかな顔のまま、ハルが手を動かした。
 カッターの刃が聖亜の首筋を撫で、赤い血がつうっと流れる。

「う……あ……やめ……」

 呆然とする僕の前で、聖亜が情けない声を出す。

「た、たすけて……ユズ」

 ごくんと唾を飲み込んだ。

「え? いまさらユズに助けを求めるなんて、こいつめっちゃダサいですね。ユズ、もうやっちゃっていいですか?」

 キリッとまた刃が伸びる。

「い、いやだ……たすけてっ、ユズ!」

 聖亜が泣きそうな目で訴える。

 死ねばいい。死ねばいいんだ、こんなやつ。
 僕のことをさんざんいじめて。僕の母さんの優しさに泥を塗って。
 だからこんなやつ……。