「クソユズって……小学生ですか? あの人」

 ハルがくくくっと笑ってから、僕を見る。

「大丈夫ですか?」

 しりもちをついたままの僕の前に、ハルが手を差し伸べてくれた。

「こんなの……慣れっこだから」

 そっとハルの手に触れると、ハルは僕の手を強く握って引っ張り上げてくれた。

「あいつが聖亜ですね? 遺書の一番上に書いてあった」
「……うん」

 僕は憎い順に、いじめっ子の名前を紙に書いていた。

「ユズはあいつを殺したいんですね?」
「い、いや、殺したいっていうか……」
「きっとできると思います」

 腰を曲げたハルがシャーペンを拾って、僕に差し出す。

「ボク、殺してやってもいいですけど? 聖亜を」

 シャーペンを受け取り、ごくんと唾を飲む。
 たしかに聖亜のことは殺したいほど憎んでいる。
 シャーペンを持てるハルならば、ナイフや包丁だって持てるだろう。
 本当に聖亜を殺すことができるかもしれない。
 でももし本当に聖亜が死んでしまったら、僕は――。

「ユズはこの前、死のうとしてましたけど」

 ハルの声にハッと顔を上げる。

「ユズが死ぬなんておかしいですよ。もしかして自分が死ねば、あいつらが反省するとでも思ってます? そんなわけないです。一瞬やばいって思うだけで、すぐにまた別のやつをいじめるだけです。ユズが死んでも、あいつら反省も後悔もするわけない」

 反省も後悔もするわけない……。
 黙り込んだ僕の肩を、ハルがぽんっと叩く。

「大丈夫。ユズはなんにもしなくていいんです。ボクがあいつをビビらせて、痛い目に合わせて、消してあげますから」

 僕の手を汚さず、聖亜を消す……。
 僕はカッターの入ったポケットに手を入れる。

「その代わりユズは、ボクの死んだ理由を見つけてくださいね?」

 黙ってハルを見た。その目に僕だけが映っている。
 僕はハルにとって特別。僕たちは友達。
 聖亜はもう――友達なんかじゃない。

「わかった。僕がハルの死んだ理由を見つける。だからハルは聖亜を……殺してよ」

 僕の声に、ハルはちょっと子どもっぽい顔で、うれしそうに笑ってうなずいた。