いつも通り、母さんに挨拶をして家を出る。四十分ほどかかる満員電車に揺られながら、僕は学校へと足を踏み出す。
高校デビューして知り合いは沢山できたと思う。けれど、よく話す人は恥ずかしながら、片手で数えられるくらいだ。
だから、気が付かなかった。
教室に入るまでは。
「…なに、これ。」
思わず情けない声が喉まで這い上がり、形を作った。
黒板に書かれていた文字に、吐き気がして、僕は口を覆った。
そこに書かれていたのは、
『酢谷涼は、変な本を使って、みんなの心の声を読んでいました。人の心を弄んでいた最悪な人です!』
仰々しくカラフルで囲まれたその文字。
その黒板の周りには人だかりが出来ていて、僕が教室に入ると同時に矢のように鋭い視線が僕に突き刺さる。
ああ、この感じ。よく知っている。
クラス中が僕を軽蔑しているそんな表情。
通学カバンを握りしめた手が次第に濡れていき、足がガクガクと小刻みに震える。僕はそんな足で、這いつくばるように黒板の近くに駆け寄った。
どうして…
これだけは、決してバレないようにしていたはずだ。
どうして、こんなことが書かれているのだろう。
そう思ったのも束の間、僕はすぐに答えを導き出した。赤司さんだ。この秘密を知っているのは、赤司さんしかいない。
黒板の一番近いところで、僕を貶すように見つめる赤司さんと視線が交わる。
どこか勝ち誇ったような笑みで、僕を嘲笑した。
「…どうして、写真までっ」
僕は黒板を這いつくばるように、眺めた。
その中に写真があった。あの本の写真だ。
僕が過去に読んできた人の心の声が書かれている。
『〇〇:―――――』
『〇〇:―――――』
脳に酸素が行き届かなくて、血の気が引いているのを感じた。
僕は、とうとう足の力が入らなくなって、床へぺたりと落ちていった。
「お前、これ本当なのか?」
「おい、何とか言えよ。」
クラスメイトたちから降りかかる、僕を軽蔑する眼差し。
あまりにも衝撃的な出来事すぎて、僕は思考を放棄していた。
ただ、どうしよう。
そう思えば思うほど、頭の中が真っ白になっていく。
呼吸が出来ない。
身体中が痛い。
次第にその声は強くなっていき、罵声に変わる。あの暗黒だった中学時代の記憶ピッタリ重なった。
「…ごめんなさい。」
僕はとうとうその声に押し負けて、罪を吐く。
その瞬間、さらに僕を罵倒する声が強まっていく。
どうしてか制御できない水滴が頬を流れていった。
その時だった。
「おい、何があったんだよ?」
聞き覚えのある声だった。背後からその足跡が近づいてくる。
僕は反射的に悠太と認識し、最後の頼みの綱のように悠太を見上げる。悠太だけは、僕を受け止めてくれるかもしれない。
「悠太っ」
最後の力を振り絞って、その名前を呼ぶ。
けれど、悠太の表情は次第に、まるで気持ち悪いものを見ているように顰めていった。
「何これ、きも」
そしてこの一言によって、僕の精神は見事に粉々に砕けた。
いつものように悪戯に笑う笑顔なんで、どこにもなかった。まるで下等生物を見ているかのような冷たい視線。
ああ、僕は、もう無理だ。
そう思った途端、僕は教室を飛び出していた。
その時僕の耳元で赤司さんが、
「ざまぁみろ。」
と呟いた。
こんな未来があるかもしれないと思ったことは数知れない。けれど、そんな視線で見られると、思っていた以上に堪えてるらしい。
中学時代にもこんな時があった。
ある意味トラウマだと思う。だから無理矢理にも自分を変えて、馴染めるように努力してきた。けれど、もう学校なんて行けない。
歴史は繰り返す。
本当にそうなんだろう。僕はもう一度、同じことを繰り返している。それも自分の手で。
高校デビューして知り合いは沢山できたと思う。けれど、よく話す人は恥ずかしながら、片手で数えられるくらいだ。
だから、気が付かなかった。
教室に入るまでは。
「…なに、これ。」
思わず情けない声が喉まで這い上がり、形を作った。
黒板に書かれていた文字に、吐き気がして、僕は口を覆った。
そこに書かれていたのは、
『酢谷涼は、変な本を使って、みんなの心の声を読んでいました。人の心を弄んでいた最悪な人です!』
仰々しくカラフルで囲まれたその文字。
その黒板の周りには人だかりが出来ていて、僕が教室に入ると同時に矢のように鋭い視線が僕に突き刺さる。
ああ、この感じ。よく知っている。
クラス中が僕を軽蔑しているそんな表情。
通学カバンを握りしめた手が次第に濡れていき、足がガクガクと小刻みに震える。僕はそんな足で、這いつくばるように黒板の近くに駆け寄った。
どうして…
これだけは、決してバレないようにしていたはずだ。
どうして、こんなことが書かれているのだろう。
そう思ったのも束の間、僕はすぐに答えを導き出した。赤司さんだ。この秘密を知っているのは、赤司さんしかいない。
黒板の一番近いところで、僕を貶すように見つめる赤司さんと視線が交わる。
どこか勝ち誇ったような笑みで、僕を嘲笑した。
「…どうして、写真までっ」
僕は黒板を這いつくばるように、眺めた。
その中に写真があった。あの本の写真だ。
僕が過去に読んできた人の心の声が書かれている。
『〇〇:―――――』
『〇〇:―――――』
脳に酸素が行き届かなくて、血の気が引いているのを感じた。
僕は、とうとう足の力が入らなくなって、床へぺたりと落ちていった。
「お前、これ本当なのか?」
「おい、何とか言えよ。」
クラスメイトたちから降りかかる、僕を軽蔑する眼差し。
あまりにも衝撃的な出来事すぎて、僕は思考を放棄していた。
ただ、どうしよう。
そう思えば思うほど、頭の中が真っ白になっていく。
呼吸が出来ない。
身体中が痛い。
次第にその声は強くなっていき、罵声に変わる。あの暗黒だった中学時代の記憶ピッタリ重なった。
「…ごめんなさい。」
僕はとうとうその声に押し負けて、罪を吐く。
その瞬間、さらに僕を罵倒する声が強まっていく。
どうしてか制御できない水滴が頬を流れていった。
その時だった。
「おい、何があったんだよ?」
聞き覚えのある声だった。背後からその足跡が近づいてくる。
僕は反射的に悠太と認識し、最後の頼みの綱のように悠太を見上げる。悠太だけは、僕を受け止めてくれるかもしれない。
「悠太っ」
最後の力を振り絞って、その名前を呼ぶ。
けれど、悠太の表情は次第に、まるで気持ち悪いものを見ているように顰めていった。
「何これ、きも」
そしてこの一言によって、僕の精神は見事に粉々に砕けた。
いつものように悪戯に笑う笑顔なんで、どこにもなかった。まるで下等生物を見ているかのような冷たい視線。
ああ、僕は、もう無理だ。
そう思った途端、僕は教室を飛び出していた。
その時僕の耳元で赤司さんが、
「ざまぁみろ。」
と呟いた。
こんな未来があるかもしれないと思ったことは数知れない。けれど、そんな視線で見られると、思っていた以上に堪えてるらしい。
中学時代にもこんな時があった。
ある意味トラウマだと思う。だから無理矢理にも自分を変えて、馴染めるように努力してきた。けれど、もう学校なんて行けない。
歴史は繰り返す。
本当にそうなんだろう。僕はもう一度、同じことを繰り返している。それも自分の手で。