「この写真……」
「見ないで!」
画面を見て、土佐辺くんの表情が変わった。たまたま見掛けた先輩が気付いたくらいだ。勘の良い彼ならすぐに僕の気持ちに気付くだろう。
「この前の文化祭の時のだよな」
「ち、違うんだ土佐辺くん、それは」
慌てて上半身を起こし、彼の腕に縋り付く。必死に弁解しようとするも言い訳が思い付かず、しどろもどろになってしまう。からかわれるか。軽蔑されるか。せっかく仲良く話せるようになったのに。
焦りと不安で青褪める僕とは逆に、土佐辺くんはなぜか笑顔だった。嬉しそうにはにかみながらスマホ画面をこちらに向ける。
「誰が撮ったんだよ、こんな写真」
「……あれ?」
そこには『僕と迅堂くん』ではなく、もう一枚の『僕と土佐辺くん』の写真が表示されていた。落とす直前、指が画面に当たって次の画像をクリックしていたようだ。
「いつの間に撮られてたんだ?」
「さ、さあ。亜衣の友だちかな……? さっき送られてきたところで」
「ふうん」
亜衣を通じて写真が送られてきたということにしておく。その答えに納得してくれたようで「オレにも転送して」と頼まれた。ようやく自分の手にスマホが戻り、ホッと息をつく。
「オレも撮った写真送る」
「じゃあ僕も送るね」
お互い送り合った写真は看板や売り物といった参考になりそうなものばかりで人物が写っているものは意外と少なかった。ツーショット写真は先ほど送られてきたものしかない。いや、もう一枚あるにはあるが、それは写真が貼られた掲示板を撮影したもの。ツーショット写真自体のデータはない。
「お化け屋敷の記録保持者の記念写真、あれデータ残ってないかな」
「亜衣に聞いてみる。あったら送ってもらうね」
その後は漫画や小説の話なんかをして、暗くなり始めた頃に帰ることに。「リーの散歩のついでだから」と家の前まで送ってくれた。散歩紐を持たせてもらったりしているうちに、あっという間に家に着く。
「また明日。ホームで」
「うん、また明日」
ヒヤヒヤしたけれど、何事もなくて良かった。