駅から徒歩十分くらいの住宅街に土佐辺くんの家はある。小学生の頃からの付き合いだけど、互いの自宅を行き来するほど仲が良いわけではなかった。だから、土佐辺くんの家に上がるのは今日が初めて。
庭付きの一戸建てで、玄関のすぐそばには犬小屋があった。中で寝ていた大きな白い犬は、門扉が開く音に反応し、土佐辺くんの姿を確認してからのそりと起き上がった。
「リー、ただいま」
わしわしと頭と首元を撫でられ、リーと呼ばれた白い犬は尻尾を振って喜んでいる。
「可愛いね。それにおとなしい」
「もう若くないからな」
見た目からは年齢は分からないが、おっとりしているのは老犬だからだそうだ。初めて会った僕にも吠えることなく撫でさせてくれる。長めの体毛がふわふわで気持ちいい。
「どーぞ」
「お、お邪魔します」
どうやらこの時間は家の人がいないらしい。僕のうちと同じで両親が共働きなんだとか。
二階にある土佐辺くんの部屋に通された。家具は全てダークブラウンで統一されていて、落ち着きがある。以前散らかってるって言ってたけど、全然そんなことなかった。天井までの高さの本棚があり、難しそうな専門書から漫画の単行本まで様々な本が並んでいる。勉強机の上には僕が貸した文庫本が置いてあった。
「あ、悪ぃ。まだ最後まで読めてなくて」
「急がなくていいよ」
じっくりと読んでくれているようで、文庫本のページの間には栞が挟まっていた。
「文化祭でジオラマ見ただろ? 無人島編を読み返したくなってさ」
「細かく再現されてたもんね」
この前の土曜日、土佐辺くんと二人で工科高校の文化祭を見に行った。お化け屋敷で叫んだり、カフェコーナーで休憩したり、展示を見て回ったり。楽しかった記憶と共に先輩に弱みを握られたことを思い出し、また気持ちが沈む。