「楽しみだね文化祭」
「そうだな。安麻田も早く衣装決めろよ」
「亜衣がまともな服を貸してくれたらね」
「なにそれ、あたしの服は全部普通よ!」

 前に貸そうとした服、ぱんつが見えそうなくらい短いミニスカートだったじゃないか。

「じゃあ、オフショルかチューブトップのトップスで肩とデコルテ見せてぇ、ミモレ丈のスカート合わせよっか。マキシ丈もいいけど、瑠衣の脚キレイだから少しは出したいんだよねぇ~」
「え、なに? 呪文?」
「服の種類だってば!」

 服の形を表す言葉だったの?

 土佐辺くんは顎に手を当て「サイズが合えばいいんじゃないか?」と頷いている。あれで意味が通じたのか。さすが物知り。

 その後も三人で僕の部屋で喋っていたら母さんから電話がきた。例の如く、用件は『ゴハン炊いといて』だ。

「僕ちょっと台所行ってくる」
「あー、オレそろそろ帰るよ」
「もう少しゆっくりしていきなよ」
「日が暮れるし、腹も減ったから」

 確かに、窓から見える空は夕焼けから徐々に夜の色に変わりつつあった。いつのまにこんなに時間が経っていたんだろう。なんだかんだで楽しかったから、あっという間だったな。

 先に僕が階下に降り、後から土佐辺くんが降りようとしたけど「ちょっといい~?」と、二階の廊下に立つ亜衣が土佐辺くんを呼び止めた。ニッと笑いながら手招きしている。

「瑠衣はおコメ研いできて!」
「なんだよそれ……」

 土佐辺くんを見送ってからやろうと思ったのに。話があるならさっき話しておけよ。

 コメを洗い、炊飯器のスイッチを入れて玄関に向かうと、ちょうど土佐辺くんが階段から降りてくるところだった。

「亜衣が引き留めてごめんね。話、なんだった?」
「んー、たいしたことじゃねえよ。安麻田が学校でうまくやってるかとか聞かれただけ」
「ええ……なんて答えたの?」
「毎日オレと楽しく過ごしてるって言っといた」

 まあ、間違ってはないけれど。