「まあまあ。おまえの妹だって一度着た姿を見せれば気が済むだろ。そうすりゃ諦めて普通の服を貸してくれるんじゃね?」
「そ、そうかな」
どちらにせよ女装するのは確定なんだけど、フリフリのメイド服に比べれば普通の服のほうが百倍マシだ。
「着たところを写真に撮って見せてやれば?」
「うーん、それで済むなら……」
「じゃ、早速今から着てもらおうか」
「えっ今から?」
「オレが写真撮ってやるから」
勢いに押され、僕はまた土佐辺くんを自分の部屋に通してしまった。
クローゼットには亜衣が無理やり置いていったメイド服が掛かっている。薄くて安っぽい生地だけど、デザインはなかなか可愛い。在庫一掃セールで二千円くらいで買えたとか何とか言っていた。
「ほ、ホントに着なきゃダメ?」
「今着ないと、文化祭でクラスメイトどころか一般の客にもメイド姿を見られるぞ」
「絶対やだ!」
制服の上から着ようとしたら、土佐辺くんから止められた。
「ハンパな着方で妹が納得すると思うか?」
「……やっぱりダメかな」
仕方なくカッターシャツとスラックスを脱ぎ、背中のファスナーを下ろしてメイド服に袖を通す。スカートがスースーして落ち着かない。
「ファスナー上げてやるよ」
「あ、ありがと」
首の後ろから腰辺りまであるファスナーは一人では手が届かなくて閉められない。土佐辺くんが後ろに立ち、閉めてくれることになった。
しかし。
「き、キツい……!」
「途中までしか閉まらねえ」
「やっぱ無理があるよね」
亜衣にはぴったりのサイズでも、男の僕にはやはり小さかった。ウエストはともかく肩周りや胸の辺りが窮屈で動きづらい。下手をすれば服が破れてしまいそうで腕を上げることすら出来ない。男女の体格差を身をもって思い知る。
「似合ってはいるんだけどなぁ。思うように動けないんじゃ文化祭で着るわけにはいかねえか」
「ファスナーが閉まらないんじゃ無理だよね」
土佐辺くんはスマホで写真を撮っていた。サイズ的にメイド服が無理だと分かったのだから、もう撮る必要はないのでは?
「スカート、おまえの妹が着てた時より短い」
「え、そう?」
「もうちょい長くなかったか? これくらい」
言いながら、土佐辺くんがしゃがみこんで僕の膝上くらいを指し示す。
その瞬間、ガチャッとドアが開いた。
「瑠衣~、知らない靴があったけど誰か来てるの?」
ノックもせず、亜衣が部屋に入ってきたのだ。いつの間にか学校から帰ってきていたらしい。
「あっ」
「あっ」
「あっ」
亜衣の視界に映るのは、メイド服に身を包んだ兄と、兄の前に座り込んで太ももを触ろうとしている男の姿。
「ご、ごめーん! お邪魔しました~!」
「ちっ違う、亜衣! 話を聞いて!」
非常に不名誉な誤解をされた気がする。