元気のない僕を心配して、土佐辺くんが家まで送ってくれた。

「今の安麻田はボーッと歩いてるうちに溝にハマりそうだから放っておけねえ」
「そこまでぼんやりしてないよ」
「でも、授業中も昼休みもボンヤリしてただろ。体調悪いワケじゃないよな。なんか悩みとか?」

 やはり土佐辺くんは勘が鋭い。
 いや、僕が分かりやすいだけか。

「いま思うと、土曜に文化祭見に行った帰りくらいから少しおかしかったよな。遊び疲れただけかと思ってたけど、もしかして、なにかあったのか?」

 隣を歩く彼に尋ねられ、僕は思わず足を止めた。カバンを持つ手が微かに震え、唇を噛む。

 黙っていてもそのうち全部バレてしまいそうだ。嘘をつくのは得意じゃない。第一、心配してくれているのに誤魔化し続けるのも申し訳ない。

 でも、僕の迅堂くんに対する気持ちだけは隠し通さなくては。

「じ、実はね」
「うん?」

 意を決し、口を開く。

「この前の文化祭の時、亜衣がメイド服着てたでしょ? あれを僕に着せようって話になってて」

 別件だが、これはこれで悩んでいる。亜衣が文化祭で着たメイド服は備品ではなく、呼び込み担当の女子数名がディスカウントショップで個人的に購入したもの。つまり、僕の家にはあのメイド服がある。元々女装用に服を貸してもらう予定だったが、せっかくだから私服よりメイド服を、という話になったのだ。

「ああ、あれか。悪くないな」
「いやいやいや」

 クラスメイトのほとんどは女装や男装をするとはいえ普通の私服だろうに、僕だけメイド服を着ていたら目立つじゃないか。

「メイド服以外貸さないとか言い出すし」
「実際に文化祭で使うかどうかはともかく、いっぺん着てみればいいのに」
「ヤだよ!」

 僕は確かに女顔だけど、普通の女子よりは肩幅もあるし筋肉もついている。フリフリの衣装が似合うとは思えない。それに、同じメイド服を着たら嫌でも亜衣との差が可視化されてしまう。迅堂くんが遊びに来るかもしれないのに。