「安麻田、どうした」
「どうもしないよ」
「おまえ変だぞ。何かあったか?」

 駿河くんだけじゃなく、土佐辺くんにも気を遣われている。普段通り振る舞っていたつもりだったけど、あの事が頭の片隅にあって、少しでも暇があると考えてしまう。幾ら考えたところで何も変わりはしないのに。

「……やっぱり体調悪いかも」
「保健室で休むか?」
「ううん、じっとしてれば治るから」

 無理やり笑ってみせると、土佐辺くんは真っ直ぐ僕の目を見つめてきた。心の内が見透かされそうで、反射的に顔を背けてしまう。

「今日は居残りは無しだ。家まで送る」
「え、でも、文化祭の打ち合わせは」
「そんな状態でまともに出来るかよ」

 確かに、今の僕じゃ致命的なミスをしそう。役に立つどころか足を引っ張ってしまう。

「大丈夫。面倒な仕事は駿河に任せたし、後は各班のリーダーがそれぞれ動く。オレたちは全体の進行具合をチェックするだけでいい」

 そう言っている間に、駿河くんが先ほどの書類を持って戻ってきた。

「各班への予算の配分、直近十年ぶんの文化祭のデータから想定されるおおよその来場者数、消耗品と販売物の必要個数、仕入れ価格その他諸々をザッと計算してみた。確認してくれ」
「え、もう!?」

 頼んでから十分も経っていないのに、ありとあらゆる試算を全て終わらせたというのか。

「な? 適材適所だろ」
「う、うん」

 進学校学年トップは伊達(ダテ)じゃない。