「あれぇ? どうしたの。顔色が悪いよ」
「いえ、これは、その」
動揺してうまく喋れない。手首を掴む先輩の手はひんやりと冷たくて、脂汗をかいている僕とは対照的に落ち着いていた。
「金髪の男子は妹さんの彼氏じゃなかったっけ? なのに、なんでこんなに嬉しそうなの?」
どうして先輩は迅堂くんが亜衣の彼氏だと知っているんだろう。
「こっちの彼は図書館で一緒に居たよね。でも、なんでかなあ? 妹さんの彼氏と喋ってる時とは表情が全然違うね」
「そんなこと、は……」
二つの写真の違いは僕の表情。迅堂くんに向ける笑顔からは友情以上の感情が混ざって見える。一方の、土佐辺くんには普通の友だちに向ける笑顔だ。
実際に違いを見せ付けられると言い訳のしようがない。こんなに分かりやすく態度に出していたのか、と愕然とした。勘が良い人ならすぐに察してしまうだろう。
──僕が迅堂くんを好きだってことが。
「俺は優しいから黙っててあげる♡」
スマホをポケットにしまいながら、先輩がにっこり笑った。黙っていてくれると聞いて、ホッと安堵の息が漏れる。
「ホント、瑠衣くんは可愛いよね」
「え、あっ」
クスクス笑われ、ようやく気付く。今の反応こそ先輩の言葉を肯定したようなものじゃないか。
「コレは貸しにしておくよ、じゃあね」
戸惑う僕に笑顔で手を振り、先輩は校舎のほうへ去っていった。後ろ姿が人混みの中に消えるまで呆然と見送る。
今日はそんなに暑くないのに、じっとりと嫌な汗をかいてしまった。まだ胸がドキドキしている。深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けようとしても全然治らない。
「安麻田、おまたせ」
「と、土佐辺くん」
「はぁ、やっと買えた。ホントに人気だな」
土佐辺くんが焼きそばの屋台に並んでから十五分くらい経っただろうか。その間に色々なことが有り過ぎて、全く待った気がしない。
僕の隣にドカッと腰を下ろし、彼は出来立ての焼きそばのパックをひとつ差し出してきた。お礼を言って受け取る。
「迅堂から頼まれなきゃ、あと五分は早く戻れたんだけどな」
「そうだったんだ」
「さ、食おうぜ。腹減っちまった」
迅堂くんおススメの生徒会特製焼きそばは具沢山で美味しかったけど、なかなか喉を通っていかなかった。あまり食が進まない僕を見て、土佐辺くんが首を傾げる。
「どうした、疲れたか?」
「う、うん。ちょっとだけ」
「見たいもんは見たし、食ったら帰るか」
「もっと見て回らなくていいの?」
「いや、俺も疲れたし」
せっかく遊びにきたのに気を使わせてしまった。
その後は自分たちの出し物について意見を出し合いながら歩いて帰り、土佐辺くんに小説を貸してから解散した。