「亜衣は?」
「女子だけで休憩行くんだとさ。メイド服だとオマケしてもらえるからって着替えずに行ったんだぜ? まったく」
「そりゃ心配だね」
「ま、一人じゃないからいいけどさ」
学校の先輩からちょっかい掛けられてるって言ってたっけ。あの服でウロウロされたら、彼氏としては気が気じゃないよな。
「で、土佐辺は?」
「焼きそばの行列に並んでるよ。まだしばらくかかりそう」
「生徒会の屋台は毎年大盛況なんだよ。よーし、声掛けるついでに俺のぶんも買ってもらおーっと」
今から列の最後尾につくより、途中まで並んでる友だちに買ってもらったほうが確かに早い。迅堂くんは焼きそばの屋台へと走っていった。
「はぁ~……」
彼を見送ってから、両手で顔を覆って溜め息をつく。まさか外でも会えるとは思わなかった。ジャージ姿の迅堂くんはレアだ。うちに遊びに来る時は制服姿だもん。写真撮っておけば良かった。
「あれぇ、瑠衣くんだー!」
すると、また何処からか声を掛けられた。キョロキョロと見回しても声の主は見つからない。
「こっちこっち」
「うわっ、先輩!?」
なんと、先輩は校長の銅像の台座の影に隠れていた。僕が見つけると、影から出て近寄って来る。
「文化祭、遊びに来てたんだね」
「は、はい。妹がこの学校に通ってるんで」
「へえ、瑠衣くんの妹なら可愛いんだろうな」
「先輩も遊びに来てたんですね」
「……うん、そう。遊びに来てるんだ」
少し間があったように感じたのは気のせいだろうか。先輩はTシャツにハーフパンツ、スニーカーというラフな出立ちで、いつもの制服姿とは受ける印象が違う。
「瑠衣くん、一緒に回ろうよ。何でも買ってあげるからさ」
「あ、いえ。今日は友だちと来てて」
そこまで答えて、僕は青褪めた。土佐辺くんは先輩を見る度に何故か警戒心丸出しで不機嫌になってしまう。今日も、偶然とはいえ先輩と一緒にいるところを見られたらどうなることか。
ちら、と視線だけ焼きそばの屋台に向けると、人混みのせいか土佐辺くんの姿は見えなかった。そろそろ戻ってくる頃だろう。
「仕方ない、一人寂しく回るとするかな」
友だちと一緒に来ていると答えたからか、先輩はすぐ退いてくれた。良かった、助かった、と思った瞬間。
「ジャーン!……これなーんだ?」
先輩が自分のスマホ画面を僕に向ける。そこには、僕が迅堂くんと話している姿が写っていた。