室内は遮光カーテンが引かれ、昼間だというのに真っ暗だった。順路にそって置かれたライトだけが闇の中に浮かび上がっている。パーテーションで細かく区切られ、二人並んで歩くのが精一杯の通路が設けられていた。

「けっこう雰囲気あるね」
「だな」

 おどろおどろしいBGMは室内にも流されている。時折仕切りの隙間から白い手が出て手招きしたり生ぬるい風が吹いてきたりと、お化け屋敷らしい演出がされていた。はぐれないよう土佐辺くんの上着の裾を掴んで歩く。

「安麻田、服が伸びる」
「ご、ごめん。でも」
「掴むならこっちにしろ」

 そう言って彼は僕の手を服から引き離し、代わりに自分の手を握らせた。つまり、手を繋いで進むということだ。恥ずかしいけど中は暗い。誰かに見られるわけじゃないからいいか。

「おー、すげえ」

 正面に映し出されたお化けの映像にびっくりして足を止める。映像に見入っていると、背後から何かが近付いてくる気配を感じた。振り返ったら驚かし役の人が今にも襲い掛かってきそうな体勢で身構えていた。

「ひゃっ!」

 僕は土佐辺くんの手を引っ張り、走って逃げた。角を曲がると、さっきの驚かし役はもう追い掛けてこなくなった。

「さっきのすごかったな。正直文化祭のお化け屋敷なんて舐めてたのに」

 土佐辺くんは感心したように呟いている。僕が無理やり引っ張らなければ、脅かし役を無視して映像に見入っていたかもしれない。

「マネキンに映像投影してリアリティ出してたとことか、製作者のこだわりを感じる」
「マネキンなんかあった?」
「三体置いてあった」
「そんなとこまで見る余裕ないよ」

 立体物を置いての映像投影……プロジェクションマッピングみたいなものか。確かに凝っている。映像も自分たちで作成したもののようだ。