工科高校の文化祭に来たのは今日が初めてだ。校門を入った瞬間から屋台の呼び込みがすごくて、土佐辺くんが手を引いてくれなかったら全部買う羽目になっただろう。

「迅堂たちのクラスどこだっけ」
「えーと、視聴覚室でやってるって」

 入り口で貰ったパンフレットには簡単な校内マップが載っている。場所を確認してから校舎に入った。

「いらっしゃーい! 寄ってってね~!」

 覚えのある声が人垣の向こうから聞こえてくる。廊下を埋め尽くす一般客を掻き分けていくと、そこにはメイド服姿で呼び込みをする亜衣の姿があった。

「瑠衣! 来てくれてありがとー!」
「お化け屋敷なのに、なんでメイド服?」
「客寄せと言えばメイドでしょ!」

 そうかなあ。見れば、亜衣以外にも数人の女子が同じようなメイド服を着てチラシを配っている。

「あーっ土佐辺くんだよね、ひさしぶり~! ホントに瑠衣と一緒に来たんだ! 仲良いんだねぇ」
「まあな」

 僕の隣にいる土佐辺くんに気付き、亜衣はその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。そんなにジャンプしたらパンツが見えてしまうと思いきや、スカートの下にしっかりスパッツを着用している。これには周りにいた男性客が肩を落としていた。

 話をしていると、離れた場所で呼び込みをしていたメイド服女子がこっちにやってきた。僕の顔を見るなり、きゃあきゃあと盛り上がる。

「亜衣ちゃん、この人がそう?」
「うん、あたしの双子のおにーちゃん」
「めっちゃ似てる~! 可愛い~!」

 パーティーグッズ売り場で売ってそうな丈の短いメイド服姿の可愛い女の子たちが腕を組んだり抱きついたりしてくる。亜衣と同じ顔だから彼女たちは何の抵抗もないみたい。男性客から羨ましげに見られていることに気付いて腕を振り解こうとしたけど、胸に手が当たりそうで下手に動けなかった。

「おい、さっさと中に案内してくれよ」
「そーだった! ごめんごめん!」

 土佐辺くんに促され、亜衣はようやく本来の仕事を思い出した。メイド服の女の子たちも慌てて持ち場へと戻っていく。