「安麻田、これの前の巻ある?」

 いつのまにか土佐辺くんが僕の背後に立っていた。手には先ほどの文庫本がある。何冊か出ているうちの途中の巻だったから気になったらしい。

「あるよ、こっちの本棚に全巻」
「おっ、ホントだ。ちょっと見ていい?」
「うん」

 そう言うと、彼は部屋の隅にある本棚の前に行き、本を探し始めた。その隙に手早く服を着る。

「意外と渋い小説読んでるんだな。『特攻列島』ってベストセラーだけど親世代の作品じゃね?」
「夏休みにドラマの再放送やってて、それで原作が気になって買ったんだ」
「あ、それオレも観た。面白かったよな」

 たまたま同じ再放送を観ていたと分かり、話が盛り上がる。その間に着替えも済んだ。

「興味あるなら貸そうか」
「マジで? 貸して貸して!」
「でも今渡したら荷物になっちゃうね」
「じゃ、帰りにまた寄っていい?」
「そうしよっか」

 小さな文庫本とはいえ四冊もあり、かさばるし重い。これから出掛けるというのに邪魔になってしまう。

「それにしても……」

 そう言いながら土佐辺くんは本棚を上から下まで眺めた。何故かニヤニヤしている。

「エロい本があるかと思ったのに、なんもなくて拍子抜けだったな」
「あるわけないよ!」

 やけに部屋に来たがると思ったら、最初からエロ本を探すつもりだったのか?

「普通はあるだろ。健全な男子高校生なら」
「えっ。そ、そうなの?」

 運動部は部室にエロ本を置いて共有してるとか前に聞いた気がする。普通はそうなのか。

「土佐辺くんも持ってるの?」
「どうだと思う?」
「今の流れなら持ってるんでしょ」
「興味あるなら貸そうか?」
「い、要らない!」
「あっそ」

 ……やっぱり持ってるんだ。