翌朝、駅のホームには土佐辺くんの姿があった。僕に気付くと軽く手を上げて笑い掛けてくる。偶然じゃない。やはり僕に合わせて早く来ているようだ。

「昨日、結局なんだったの?」
「あー……知った顔が居たから挨拶しに」
「そうだったんだ」

 文化祭の実行委員会が終わった後に土佐辺くんがどこかへ行ったのは知り合いに声を掛けるためだったのか。とてもそんな風には見えなかったけど、本人が言うのならそうなのだろう。話題はそのまま明日の文化祭見学へと移った。

「どーやって行くかな」
「そんなに遠くないし、歩いていく?」
「そだな。バスに乗るほどでもないか」

 工科高校は僕の家からだと徒歩で十五分くらいの場所にある。迅堂くんは自転車、亜衣は徒歩通学だ。

「土佐辺くんの家と僕んちの中間地点くらいで待ち合わせしようか」
「いや、安麻田んちに迎えに行く」
「僕んち知ってるの?」
「小学校ん時プリント届けたことある」
「えっ、あれ土佐辺くんだったんだ!」

 確かに高学年の頃、亜衣と二人で風邪をこじらせて三日くらい休んだことがあり、学校帰りにクラスメイトが宿題のプリントを届けてくれた。名乗らずにすぐ帰ってしまったと母さんから聞いていたが、まさか土佐辺くんだったとは。

「よく覚えてたね」
「オレ記憶力いいから」

 小学校三年生の遠足のことも覚えていたし、本当に記憶力が良い。だから成績も良い。いや、きちんと勉強している姿を見たじゃないか。土佐辺くんは表では余裕があるように演じて、裏での努力を周りに悟らせない。物知りなのも頭が良いのも彼の努力の成果。簡単に羨むべきではない。