テスト最終日。テストは午前までで、午後からは普通に授業がある。もうテスト勉強のためという口実で図書館に寄ることはできない。

「瑠衣、アタシ今日遅くなるかもぉ」
「えっ、珍しいね。補習?」
「ちーがーうっ! 文化祭の準備!」

 そうだった。工科高校の文化祭は次の土曜に開催される。今日はクラスの出し物の最終確認があるらしい。

「瑠衣も見に来てくれるんでしょ? うちのクラスの出し物すごいから期待してて」
「うん、楽しみにしてる」

 他校の文化祭を参考にするため、文化祭実行委員仲間の土佐辺くんと共に見学に行くのだ。僕たちの高校の文化祭は二週間後。準備に取り掛かるのは週明けから。見聞きしたことを活かすには十分な期間がある。

「だから今日は瑠衣がゴハン炊いてよね!」
「わかってるよ。あと迅堂くんに昨夜のお礼言っといてね」
「お母さんたち喜んでたってメールしといた」
「そっか」

 平日はいつも決まって母さんが仕事帰りに買ってきた惣菜と白飯の夕食だ。でも、昨夜は迅堂くんが温野菜のサラダとおみそ汁を作っておいてくれたおかげで食卓が華やかだった。白飯の炊き上がりも完璧で、母さんも父さんもびっくりしていた。「迅堂くんがお嫁に来てくれたら嬉し~!」と本気で言ってたくらい。

 迅堂くんは弟妹の世話で忙しい母親を気遣い、昔から家事を手伝っている。見た目は金髪でチャラいし勉強は少し苦手だけど、短所を補って余りあるほど魅力がある。彼への気持ちを消し去りたいのに、また惚れ直してしまいそう。

「また晃に作ってもらおっかなぁ」
「次は亜衣がやりなよ」
「上手な人が作ったほうが効率良くない?」
「練習しなきゃ上達しないよ」
「えーっ、それは困る!」

 軽口を言い合っていたせいで、いつもより家を出る時間が遅れてしまった。玄関を出たところで、キキッと自転車のブレーキ音が響く。

「瑠衣、おはよ」
「おはよう、迅堂くん」

 亜衣を迎えにきた迅堂くんと家の前で鉢合わせた。笑顔を作り「昨日はありがとう、美味しかったよ」と言えば、彼は照れ臭そうに「あれくらい、また作ってやるよ」と笑う。朝日を浴びた金の髪が輝き、屈託のない笑顔がより眩しく見えた。

 八年前のあの時から、迅堂くんは僕の太陽だ。好きにならないわけがない。でも、駄目だ。こんな気持ちを抱いたままじゃ、亜衣と彼の交際を心から祝福出来ない。早く忘れなければ。

「文化祭の準備、頑張ってね」
「おうっ!」

 僕と入れ違いで玄関に入る迅堂くん。これから亜衣を自転車の後ろに乗せて一緒に登校するんだろう。二人のそんな姿を見たくなくて、足早に駅へと向かう。前までは、顔を見られただけでラッキーだと思えたのに。