先輩が去った後、特に話をすることもなく図書館の閉館間際まで勉強を続けた。駅に向かう道でも電車内でも会話はなく、最寄り駅に到着しても無言のまま。
「じゃあ、また明日」
「おう」
怒ってるというより何か考え込んでいるみたい。返事はしてくれたけど、僕の顔を見ようともしない。せっかく仲良くなれたのに気まずくなりたくない。このまま別れたら、気になって明日のテストどころではない。意を決し、踵を返す。
「待って」
背を向ける土佐辺くんを追い掛け、手を掴んだ。驚いて振り向く彼と目が合う。昼間に仲違いしてから初めて顔をまっすぐ見た。珍しく困惑した様子の土佐辺くんに、胸の内を打ち明ける。
「僕を心配してくれたんだよね」
「あ、ああ」
「それなのに言うこと聞かなくて、ごめん」
彼は僕を心配してくれただけ。そのことについて謝ると、彼は少し表情を緩めて小さく頷いた。
「今日は閉館まで付き合ってくれてありがとう。おかげで寂しくなかったし、勉強も捗った」
一人だったらきっと集中出来なかった。彼が隣で黙々と頑張っていたから僕も頑張れたんだ。あと、先輩と二人だけになるのも抵抗があったから、土佐辺くんが居てくれて助かった。険悪な雰囲気になっちゃったのは困るけど。
「テスト最終日、頑張ろうね」
「……おう、負けねーからな」
やっと土佐辺くんが笑顔を見せた。ケンカしたわけじゃないけれど、気まずいまま別れてしまわないで良かった。