平日昼間の図書館は閑散としている。自習スペースに座っているのは、今のところ僕と土佐辺くんだけ。隣り合った席に座り、教科書とノートを広げて明日のテスト教科を復習する。

「現代文の範囲ってここまで?」
「いや、変更されてたから次の項目まで」

 こんな風に小さな声でやり取りするくらいで、あとは黙々と机に向かう。ノートに書き込む音と、遠くで誰かが本をめくる音だけが耳に届いた。

 キリの良いところまで終えて顔を上げると、隣に座る土佐辺くんはまだ参考書に視線を落としていた。真剣な横顔に、どきりとする。

 土佐辺くんは何でも知っている。うらやむこともあるけれど、彼の優秀さは地道な努力の上に成り立つものだ。頑張っている姿を見る度に僕も頑張らなくては、と思う。

「なに?」
「なんでもない」

 視線に気付いた土佐辺くんが僕のほうを見てニッと笑うので、慌てて教科書で顔を隠した。

 少し前まで目が合いそうになる度にそらされていたけれど、最近はそんなこともなくなった。同じ文化祭の実行委員になった頃からだ。話す機会が増えたから仲良くなれたのかもしれない。それまでは嫌われていたんだろうか。小中高と同じ学校だというのに。

 明日のテスト範囲をひと通り復習し終えた辺りで休憩を挟む。周りを見れば、少しずつ利用者が増えてきていた。同じ将英学園の制服を着た学生もいるし、近隣の学校の制服も混じり始めている。

 そういえば『また明日』って言っていた癖に先輩の姿はない。やはり一度家に帰ってから来ているのだろうか。それとも、からかわれただけか。

「金曜には答案用紙返ってくるかな」
「あんまり結果見たくない」
「んなこと言って満点だったりして」
「ぜったい無理」

 自販機で買った甘いジュースを外のベンチで飲みながら、とりとめのない話をする。

 土佐辺くんは今回もまず間違いなく上位だろう。僕はテスト前に気持ちを乱してしまった。他のことばかり考えて勉強に手がつかない。いつもより点数が低いと予想がつく。