帰り際、土佐辺くんから呼び止められる。

「一緒に帰ろーぜ」
「あ、えーと、今日は図書館に……」

 今からお昼ごはんを近くのコンビニで買って図書館に行くつもりだったのだ。亜衣には帰りが午後六時を過ぎると既に伝えている。

「なんか借りるのか?」
「閉館まで勉強してくつもり」
「もしかして、昨日も図書館に寄ってた?」
「うん。自習スペースで」
「帰りに見掛けねーなと思ったら」

 どうやら土佐辺くんは僕と一緒に帰ろうと思っていたらしい。昨日はすぐに図書館に向かった。校門から出たら図書館は駅とは逆の方向になるから見つけられなかったんだろう。

「オレも勉強していこっかな」
「なんで?」
「家に帰っても昼メシないし、自分の部屋だと怠けちまうからな。安麻田もだろ?」
「そ、そう。そうなんだよね」

 どういうワケか、土佐辺くんと一緒に図書館で勉強することになってしまった。

 近くの公園に立ち寄り、広場の前にあるベンチに並んで座り、コンビニで買ったおにぎりを食べる。

「シートとかあれば芝生のとこで食えたのにな」
「ひなたはまだ暑いよ。でも、外で食べるの楽しいよね。遠足みたいで」

 遠足といえば、僕が迅堂くんを好きになった切っ掛けの行事だ。自分で言ってから思い出し、また少し気持ちが沈む。亜衣とうまくいくようにお膳立てしておいて傷付くなんて、僕は本当に身勝手だ。

「そういえば、小学校ん時の遠足で安麻田たちが迷子になったよな」

 土佐辺くんの言葉に思わず顔を上げる。

「もうちょい涼しい時期だったっけ。あの日も良い天気だったよなぁ」
「何年も前のことなのに、よく覚えてるね」

 あれは今から八年前の秋。僕たち双子がみんなからはぐれたのは、ほんの十数分。土佐辺くんも駿河くんも同じクラスだったけど班は別だ。そんなに騒ぎになったわけでもないのに今でも覚えているなんて。

「忘れるわけねーよ」

 土佐辺くんは眼前に広がる芝生をぼんやりと眺めている。その横顔はいつになく物憂げで、僕はなんと返事をしたものかと迷った。でも、すぐにいつもの調子に戻り「じゃんけんで負けたほうがゴミ箱に捨てに行くか」と、パンの包み紙を差し出してきた。なんでも勝負にするのが癖なんだろうか。

 三回勝負で三回とも負けた土佐辺くんがゴミを捨てに行った。自分から言い出したのにじゃんけん弱過ぎる。なんで落ち込んでいたのか忘れるくらい笑った。