次の日も『帰りが遅くなる』と亜衣に告げた。
「今日も図書館で勉強会するの?」
「うん、もう約束してるんだ」
「そっかぁ……」
亜衣が何か言いたそうにしていたけど、僕はすぐに家を出て駅に向かった。
今日は迅堂くんのアルバイトがない日だから学校帰りに遊びに来るだろう。僕の帰宅時間がいつもより遅いと知れば、きっと行動に出るはずだ。二人の邪魔をしたくないし、先週のように現場に遭遇したくない。なにかするなら僕がいないうちに終わらせてほしい。
「安麻田!」
「土佐辺くん、おはよう」
もうすぐ駅に着くところで土佐辺くんに会った。遠くから僕を見掛けて走ってきたらしい。少し息を切らせ、額には汗をかいている。それを腕で雑に拭いながら、彼は笑顔で話し掛けてきた。
「今日も会ったな。一緒に行こ」
「うん」
いつもはもう少し遅い時間に登校すると言っていたのに、やはりテスト期間だから気合いが入っているみたい。
「昨日のテストどうだった?」
「全然ダメだったよ」
先週のことを引きずり過ぎて何も頭に入らなかった。まあ、言い訳にしかならないけど。
「ところで、総合順位で負けたほうがジュースおごるって話したっけ?」
「ちょ、待って。僕そんな約束してないよ」
「今日明日で挽回すりゃいーじゃん」
「土佐辺くんに勝ったことないんだけど」
得意科目なら良い勝負だけど総合では負ける。なんでもソツなくこなすオールラウンダーな土佐辺くんには敵わない。
「じゃあ、どれか一つでも駿河に勝ったほうが勝ちってのは?」
「二人ともも負けたらどうなるの」
「……オレたちが駿河にジュースおごる?」
「あはは、なにそれ」
学年ナンバーワンの駿河くんには一つも勝てる気がしない。学校に着くまでの間、そんな話で盛り上がった。少し沈んでいた気持ちが浮上した気がする。おかげで、テストでは実力を発揮できた。