「今日は勉強会じゃないの?」
「は、はい。僕だけ自習スペースで」
「一人で? 寂しくない?」
「先輩だっていつも一人じゃないですか」
「ああ、まあね」
そういえば、さっきまで居なかった。一旦家に帰ってお昼を食べてから来たのかも。
「ね、飲み物おごるから外で話さない?」
「え、でも、悪いですから」
「先輩には素直に甘えなよ。それに、館内で喋ると係の人に怒られちゃうからさ」
「はあ……」
なんだろう。優しいのに押しが強くて、逆らうことを許されない感じがする。きっと先輩は話し相手が欲しいのだろう。僕も閉館まで図書館にいる予定だから時間はある。断る理由はない。
カバンを自習スペースの席に置いたまま、出入り口にある自販機で飲み物を買って外に出た。図書館の駐車場脇にあるベンチに先輩と並んで座る。
「甘いの好きなんだね」
「え? あ、はい」
手の中にあるのは、さっき先輩に買ってもらったペットボトルのオレンジジュース。先輩は缶コーヒーだ。勉強で頭が疲れている時は甘いものがいいと誰かが言っていたから、僕も甘いものが飲みたくなったのだ。
「ふふ、瑠衣くん可愛い」
飲んでいる最中にそんなことを言われ、思わず咽せて咳き込む。
「大丈夫?……あーあ、涙目になっちゃって」
「すみません、大丈夫です」
先輩の手が僕の目元に伸びてきた。咄嗟に身体を後ろに引いて離れるが、ベンチの背もたれにぶつかってしまった。指先が触れ、わずかに滲んでいた涙を拭い取る。
「ん。しょっぱい」
「ちょ、なにを!」
「甘そうに見えたんだけどなぁ」
何を血迷ったか、先輩は涙がついた指をぺろりと舐めていた。慌てふためく僕を見て目を細め、いたずらっぽく笑う。掴みどころのない人だ、と改めて思った。