「亜衣。僕、図書館に寄って勉強してくるね。帰りは六時過ぎると思う」
「瑠衣んとこ今日からテストでしょ? 昼前には帰れるんじゃないの?」
「翌日の科目を集中して勉強したいからさ」
「そうなんだぁ」

 亜衣に帰宅時間を伝えておかなければ意味がない。邪魔者さえ居なければ、二人は気兼ねなく触れ合える。僕も気まずい思いをせずに済む。

「母さんから頼まれたら代わりにごはん炊いてね」
「えーっ? うまく出来るかなぁ」
「失敗しても誰も怒らないからさ」
「べちゃべちゃのごはんでも残さないでよ!」
「はいはい。じゃ、行ってくる」

 いつものように軽口を叩き合ってから、カバンを持って先に家を出た。駅までの道を歩きながら、さっきの亜衣の反応を思い出す。気を使ったとバレただろうか。いや、せっかく半日で帰れるというのに何故勉強するの、みたいな顔をしていた。僕の意図を正しく理解してなさそう。

「瑠衣!」
「迅堂くん、おはよう」

 向かいから自転車で現れたのは迅堂くんだった。朝日に金の髪が光って見える。

「亜衣を迎えに? 一緒に登校してたっけ」
「あ、いや、最近からなんだけど」
「そっか。相変わらず仲が良いねえ」

 亜衣は先輩から声を掛けられてるらしいから、きっと心配なんだろう。遠回りをしてでも迎えに来るなんて、本当に亜衣が好きなんだな。

「僕、電車の時間があるから」
「おう、またな!」

 一瞬、迅堂くんに帰宅予定時間を教えようか迷った。でも、流石に僕から彼に伝えるのは不自然だ。亜衣から聞いてくれることを祈り、僕は駅へと歩き出した。