八年前、僕は迅堂くんに助けられた。
当時、亜衣はまだ今のように社交的ではなく、何をするにも僕に付いて回るような控えめな性格だった。僕もあんまり活発なほうではなかったから、おとなしい双子の兄妹だと周りから思われていた。
迅堂くんは絵に描いたようなガキ大将で、どちらかといえば苦手な存在だった。向こうも、うじうじしてノリの悪い僕たちなんか眼中になかったと思う。同じクラスなのにほとんど関わることはなかった。
関係性が変わったのは小学校三年生の時。
遠足で山を登っていたら、みんなからはぐれて迷子になった。足を挫いた亜衣の手を引き、遅れて山道を進んでいる時に進むべき道を間違えてしまったのだ。気付いた時にはどこから来たかも分からなくなっていた。先に進むにしても引き返すにしても、足を痛めている亜衣に無理はさせられない。
途方に暮れて地べたに座り込み、二人でめそめそ泣いていると、誰かが探しに戻ってきてくれた。本来の登山道から大して離れていなかったらしく、僕たちの名を呼びながら走り回る彼にすぐ気付き、声を上げた。
探しにきてくれたのは迅堂くんだった。
涙でぐちゃぐちゃになった僕たちに笑顔で手を差し伸べてくれた。軽々と亜衣を背負い、山頂まで一緒に登ってくれた。いつもは怖い彼が、すごく強くてカッコよく見えた。