僕は迅堂くんが好きだ。

 自分だけを見てほしいとか、亜衣から奪いたいなんて一度も望んだことはない。二人の幸せを傍で見守っていられればいいって本気で思っていた。

 でも、今日みたいなニアミスが当たり前に起こり得るということなのだ。実際にそんな場面に遭遇して、ようやく実感が湧いてきた。

 迅堂くんの家はお母さんが専業主婦で家にずっといるし、弟妹もいる。彼の家に遊びに行ったとしても二人きりにはなれない。僕たちの家は共働きで、親は夜まで帰ってこない。僕と亜衣の部屋は隣同士。防音どころか部屋のドアには鍵が付いていないのだ。

 そこまで考えて、何度目かの溜め息を吐き出す。

 あれから、母さんと父さんが帰ってきて一緒に夕食を食べた。その頃には亜衣もいつも通りに戻っていたけれど、なんとなく気まずくて料理の味が分からなかった。