「アイツら成績ギリギリだから、余計な仕事増やして追試になったら可哀想じゃん」

 話し合いで盛り上がっていたメンツはみな運動部で推薦入学してきた、通称・スポーツ推薦組。しかし、うちは進学校。部活より学業を重んじる。成績が落ちれば容赦なく部活を休まされ、既定の課題が終わるまで復帰は許されない。秋には色んな大会が開催される。レギュラーから外されたら元も子もない。

「その点、安麻田は入学してからずっと成績上位をキープしてるし他のヤツより余裕があると思ってさ」
「そっか」

 クラスメイトたちの事情を思い遣った結果、僕に白羽の矢が立てられたというわけだ。

「それだけじゃない。安麻田は口数少ないけど頭ん中で色々考えてるだろ? これでも頼りにしてんだぜ」

 そう言われ、僕は思わずノートで顔を隠した。

 土佐辺くんはすごい。急に変なこと聞いちゃったのにサクッと理由を教えてくれる。

「……役に立てるよう頑張るね」
「ハハッ、頼んだぜ相棒!」

 軽く肩を叩かれ、過剰に反応する僕を見て、土佐辺くんは声を上げて笑った。教室内に残っていた他のクラスメイトたちから注目が集まり、僕は顔の前からノートを退かせなくなってしまった。

「でも、成績良い人なら他にもいるよね。駿河(するが)くんとか」
「アイツはカタブツだからな~。融通利かねえヤツはこーゆーの向かねーんだよ」
「確かに」
「それに、アイツ週三で塾通いだろ? そもそもヒマがねーんだよな」

 駿河くんも僕たちと小学生の頃から一緒の友だちだ。成績は常に学年トップ、真面目で実直な性格を買われてクラス委員を務めている。土佐辺くんの言う通り、駿河くんに文化祭の実行委員は不向きかもしれない。

 それにしても、土佐辺くんは本当に色んなことを把握している。他のクラスのことからクラスメイトの個人的な情報まで。彼には知らないことなんてないんじゃないかな。少し羨ましく感じた。