家に帰ると、玄関には亜衣と迅堂くんの靴があった。昨日でテストが終わったから遊びに来ているようだ。二人のテスト結果はどうだっただろうか。少し気になる。

 階段を登り、自分の部屋に入ろうとしたところで、隣の亜衣の部屋から漏れ出る声に気付いて足を止めた。思わず息をひそめ、聞き耳を立てる。

 荒い呼吸と衣擦れの音。
 時折聞こえる、亜衣の切なげな声。

 いつもなら玄関を開けたり階段を登ってくる音で僕の帰宅に気付くのに、どうやら盛り上がっていて聞こえていないようだ。さすがに最後まではしないと思うけど、キス以上の行為をしているのは確か。

 階下に降りて時間を潰そうか、音を立てずに階段降りれるかと廊下で冷や汗をかいていたらスマホが鳴った。電話だ。いま鳴らなくても、みたいな最悪のタイミング。亜衣の部屋からガタッと音が聞こえた。

 廊下に鳴り響く着信音を消すため、すぐポケットからスマホを取り出して通話ボタンをタップする。

『瑠衣、もう家に着いた?』
「うん、いま帰ったとこ」
『お母さん今から帰るけど、買い物してくからゴハンだけ炊いといてくれる~?』
「わかった」
『お願いね~!』

 電話の主は母さんだった。用件を言うだけ言ってすぐ切れたが、母さんの声は高くて大きい。スマホ越しでもよく響く。故に、亜衣の部屋にも聞こえたようだ。