噂を聞きつけたのか参加者は日に日に増え、勉強会最終日の今日はクラスの半数以上が参加していた。みんな最後の追い込みをしたいのだろう。

 駿河くんが塾で不参加のため、土佐辺くんに質問が集中している。個別に答えるのが面倒になったらしく、途中からホワイトボードを引っ張り出して解説を始めた。まるで授業だ。

 自信に満ちた土佐辺くんの解説は安心して聞いていられる。それに対して、僕はいつも言葉を詰まらせたり迷ったりしてしまう。自信がある人と無い人。どちらに教わりたいかといえば、やはり自信がある人がいいよね。

 見習わないと、と遠巻きに眺めていたら「安麻田も手伝え!」と前に引っ張り出されてしまった。土佐辺くんの説明では理解できない人に個別で詳しく解説すると、またお礼を言われた。

 誰かに何かを教えるの、やっぱり好きかもしれない。口下手だし、自信を持って言い切るような説明の仕方は出来ないけれど、誰かのために自分の知識を役立てるってすごく楽しい。そういう仕事に就けたらいいなって、ここ数日で思うようになった。

 質問が落ち着いた頃、勉強会を企画した檜葉さんが僕と土佐辺くんを部屋の隅に手招きした。

「二人ともありがとう。みんな赤点回避できそう」
「凡ミスしなきゃ大丈夫だろ。オレが教えきれなかったヤツは安麻田がフォローしてくれたし」
「う、ううん。僕なんか」
「そんなことないわ。安麻田くんもありがとう。すごく助かっちゃった」

 改めてお礼を言われ、土佐辺くんは軽く笑って応えている。檜葉さんはキョロキョロと辺りを見回してから、僕たちだけに聞こえるよう「それでね」と小さな声で話し掛けてきた。

「今日、駿河くんから衣装の件で相談されたの。貴方たちが薦めてくれたのよね。だから、そっちもありがとう」

 照れながら、檜葉さんは嬉しそうに笑う。昨日の帰りに話をした件だ。駿河くんは早速檜葉さんに服を借りれないか話をして、ついでに檜葉さんも男装用の服を駿河くんから借りることに決まったという。

「オレらは困ってるクラスメイトに実行委員として助言をしたまでだ。なあ安麻田?」
「そ、そうだよ。気にしないで」

 駿河くんからの相談を受け、檜葉さんに話をするよう仕向けたのは土佐辺くんだ。これを切っ掛けに二人の仲が進展したら恋のキューピッドになると考えるとスゴいな。檜葉さんの気持ちを知らなければ出来なかったアドバイス。やっぱり土佐辺くんはすごい。