「利用カードをお作りしますので五分ほどお待ちください。出来ましたらお名前を呼びますね」

 係の人に利用申請書と学生証を提出し、少し待つことになった。カウンターから離れすぎない程度に図書スペースを見て回る。ジャンルごとに区画が分けられ、建物の奥まで本棚が整然と並んでいる。地元の図書館より広くて専門的な本が多い印象だ。

「あれっ、君、また会ったね」
「こんにちは、先輩」

 ぶらぶら歩いていたら、先輩から声を掛けられた。カウンター近くの自習スペースで勉強していたのだろう。癖っ毛を揺らしながら、僕のすぐ傍まで近付いてくる。

「本を借りに来たの?」
「いえ、僕まだここの利用カード持ってないので、今その手続きをしてもらってて」

 ちらりとカウンターを見れば、係の人はまだカード発行作業の途中のようで、奥の席でパソコンを操作している。

 なんか距離が近い人だなと思っていたけど、理由が分かった。それはここが私語厳禁の図書館内だからだ。だから、先輩はいつも僕の耳元で小さな声で囁く。

「今日もやってるの? 勉強会」
「はい。来週からテストですから」
「頑張ってて偉いね~」
「あ、ありがとうございます」

 ヨシヨシと、小さな子を褒めるように頭を撫でられた。やっぱり先輩は距離が近い。

「安麻田 瑠衣さーん、お待たせしました」

 名前を呼ばれてカウンターを見ると、係の人がこちらに手を振っているのが見えた。図書館の利用カードが出来上がったようだ。

「じゃあ、僕行きますね」
「うん、またね。瑠衣くん(・・・・)

 先輩と別れ、真新しいカードを受け取ってから、みんなが待つ会議室へと戻った。