「勉強、頑張ってね」
「うん、ありがとー」

 自分の部屋に戻り、溜め息をつく。

 工科高校で取れる資格は多く、どれも就職に有利なものだ。恐らく高校を卒業したら資格を活かせる仕事に就き、安定した頃に亜衣と結婚するつもりなんだろう。アルバイトをしてお金を貯めているのも将来を見据えてのこと。

 駿河くんも成績上位にも関わらず塾に通い、更に上を目指している。目的のない僕とは根本的に違う。性格的に、彼には普通の会社勤めより研究職が向いてるかもしれない。

 土佐辺くんは何にでもなれそう。成績もいいし話も上手く、運動も得意。良い大学出て良い会社に勤めるのも有りだし、個人で探偵とかやっても成功しそう。だって、彼は何でも知ってるから。

 でも、今日図書館にいた先輩のことは知らなかった。学年が違えば流石に顔と名前までは把握できないか。

 急に周りがしっかりした大人に見えてきた。将来のことなんて真面目に考えたこともない。先生が薦める大学を受ければいいやと思っていたけど、適当に決めたら駄目だよね。学費だってタダじゃないんだから、ちゃんと将来何になりたいか自分で考えないと。



『安麻田の説明分かりやすい』
『何気に教えるのうまいよな』



「……あっ」

 今日の勉強会で言われたことを思い出す。面と向かってお礼を言われたり褒められたりしたのは初めてで、涙が出そうになるくらい嬉しかった。誰かの役に立てたのだと実感できた。

 将来の夢、見つかったかもしれない。