話をしているうちに自販機に着いた。ジュースを買って会議室に戻る前、土佐辺くんがトイレに寄るというので、近くの通路で待つ。

「あれ、昨日の子だよね?」
「こんにちは」

 壁に背を預け、ぼんやり立っていた僕に話し掛けてきたのは昨日の男の人だった。やはり、うちの高校の制服を着ている。

「何してるの?」
「友達を待ってます」
「ここへは勉強をしに?」
「はい、テスト週間なので」

 同じ学校の生徒なら、この人もテストのために勉強しに図書館を利用しているに違いない。

「自習スペースには居なかったよね」
「クラスのみんなで二階の会議室を借りているんです」
「ああ、だから一階じゃ見掛けなかったんだ」

 自習スペースは一階のカウンター前にあり、一席一席が仕切られた机が並んでいる。私語厳禁のため大人数での利用には向かない。

 彼はにこやかに笑いながら、当たり前のように僕の隣に立った。昨日も思ったけど、人懐っこいというか距離感がバグっているというか。会って二回目なのに、なんでこんなに話し掛けてくるんだろう。

「ねえ君、何年生?」
「二年です」
「へえ、一年生かと思った!」

 学年を教えたら大袈裟に驚かれた。僕が童顔なのは事実だけど、驚くほどだろうか。

「俺は三年なんだ。よろしくね」
「じゃあ先輩ですね」
「んふふ、いーねぇ先輩って響き♡」

 彼……先輩は満面の笑みを浮かべ、まじまじと僕の顔を見つめてくる。だから、いちいち距離が近い。

「安麻田、待たせたな」
「と、土佐辺くん」

 対応に困っていたら、トイレから土佐辺くんが出てきた。ホッとして表情がゆるむ。

「……その人、誰?」

 土佐辺くんが怪訝そうに尋ねると、先輩は「またね~」と笑顔で去っていった。後ろ姿を呆然と見送りながら、僕たちは顔を見合わせる。

「今のヤツ、知り合い?」
「ううん、知らない人。うちの学校の先輩」
「あんな奴、見たことないぞ」

 情報通の土佐辺くんでも知らないことがあるんだ。