土佐辺くんから推薦され、僕はクラスの文化祭実行委員の一人に選ばれてしまった。文化祭まであと一ヶ月半。『男装&女装カフェ』で出すメニューや当日のシフトを決めなければならない。

 実行委員の僕たちは自分のクラスだけではなく、他の実行委員と連携して全体の準備を手伝う義務がある。行事の運営側に回った経験は初めてで、ちょっと緊張してしまう。

「クラスの奴らに好き勝手に言わせておくと話がまとまらねー。先に幾つか案を出して、その中から多数決で決めさせるか」
「う、うん」
「飲食系の出し物は多いからな。内容がカブらないようにしたいよな」
「そうだね」

 放課後の教室の片隅。僕の前の席に後ろ向きに座り、一緒に企画を練る。と言っても、何をやったらいいか分からない僕は彼の言葉に頷くだけ。

「あのさ、土佐辺くん」
「ん?」

 意を決して話し掛けると、机の上に広げたノートを見ていた土佐辺くんが顔を上げた。でも、すぐノートに視線を戻してしまう。以前も目が合った時にすぐ逸らされた。なんとなく気まずい気持ちになる。

「どうして僕を選んだの?」
「理由なんか要る?」
「そりゃ知りたいよ」

 つい問い詰めるような口調になってしまい、ぐっと唇を噛む。僕はいつもこうだ。さりげなく聞こうと思っていたのに全然うまく言葉が出てこない。

「勝手に決められて迷惑だったか?」
「め、迷惑とかじゃ」

 机を挟んで向き合っているのに、下を向いた彼がどういう感情を抱いているのか分からない。逆に、土佐辺くんには僕が何を考えているか筒抜けみたい。目を合わせぬまま、彼は嘆息混じりに口を開いた。