僕は迅堂くん……妹の彼氏が好きだ。彼とどうにかなりたいわけではない。亜衣から奪いたい、自分だけを見てほしいとは思わない。ただ目の届く範囲に居てくれればいい。
『好きなヤツが目の前にいれば触りたくなるし、他の誰よりもくっつきたくなるのは当たり前のことだ』
ふと、土佐辺くんの言葉を思い出した。
当たり前なんて僕には当てはまらない。だって、とっくに普通の道からズレている。僕は好きな人に触れなくても構わない。
「瑠衣~、アタシも分かんない!」
「あ、そこ分かる。俺が教えてやるよ」
「うそっ、アタシ晃に負けてる!?」
目の前で仲睦まじく肩寄せ合う亜衣と迅堂くんを見ても微笑ましいと思う以上の感情はない。
嫉妬する資格すらない。
そばで見ていられるだけで、いい。