「それで、この前の話なんだけど」
「なんだっけ?」
「同年代の男子が迅堂くんみたいに……エ、エッチなことに興味あるかどうかって話」
「友だちに聞いてくれたの? なんて?」
「普通はみんな興味あるって」
「……そっかぁ」

 この解答に、亜衣はやや肩を落とした。ごく普通のことならば、要求を断った側が悪いと思ってしまったかもしれない。

「好きな人がそばに居たら触りたくなるのは当たり前なんだって。迅堂くんは亜衣が好きだから色々したいって思うんだよ」
「そ、そっか」

 僕の言葉に、亜衣は満更でもない表情を浮かべた。

「迅堂くんがそういうこと言い出したの、この前が初めて? もしかして最近なにかあった? 亜衣、他の男子から声掛けられてるんじゃないの」

 土佐辺くんは、迅堂くんが嫉妬と焦りでそういう行為を求めているのではないかと推測していた。恋人が誰かに奪われる前に確実に自分のものにしておきたいのだろう、と。

「確かに最近よく先輩から遊ぼって誘われてる」
「ちゃんと断った?」
「ヒマな時にねって適当にかわしてるけど」
「亜衣~……」

 そんな中途半端な断り方では迅堂くんが焦るのも仕方ない。しっかり繋ぎ止めておきたくなる。

「遊びに誘うのなんて挨拶代わりじゃない?」
「例えばの話だけど、迅堂くんが他の女子からデートに誘われて曖昧な返事をしてたらどう思う?」
「え、やだ」
「それと同じだよ」

 自分と彼の立場を置き換えて考えてみて、ようやく状況を理解したようだ。

「はっきり断って迅堂くんを安心させてあげなよ。でないと、またケンカになるよ」
「わ、分かった。次に誘われたら断る」

 亜衣はいつになく真剣な顔で頷いた。ここまで言われなくても気を付けてほしい。