再び話し合いを始めるクラスメイトたちの会話に耳を傾けながら窓の外を眺める。深い青に白い雲がくっきりと浮かぶ空。開け放たれた窓から入り込んだ爽やかな風が汗ばんだ肌にほんの少しだけ涼を運んでくる。夏休みが終わってもまだまだ暑い。
長い話し合いの結果、うちのクラスの出し物は『男装&女装カフェ』に決まった。メイド喫茶と何が違うのか分からないが男女どちらも参加できる内容で、衣装も家族やクラス内で私服を借りれば済むから用意しやすい。
「次は実行委員を決めるぞ。立候補したい奴は?」
実行委員はクラスメイトたちと連携を取って買い出しや作業の予定を組んで指示を出したり、文化祭当日には見回り当番をしなければならない。クラスを取りまとめる大事な役割だ。
「やっぱ土佐辺くんでしょ」
「だな、土佐辺なら安心だ」
「はぁ? なんでオレが!」
実行委員に満場一致で選ばれたのは、やはり土佐辺くんだ。迷惑そうに悪態をつきながらも、彼は条件付きで承諾した。
「安麻田と一緒ならやってもいーよ」
クラスメイトの視線が教室の後ろに集まる。ぼんやりと窓の外を眺めていた僕は、急に話を振られて「え、なに?」と間の抜けた声を上げて固まった。
「ていうか、なんで安麻田くん?」
当然の質問が飛んでくる。理由は僕も聞きたい。
「おまえら忘れてないか? 文化祭の前には中間テストがあるんだぞ。テスト勉強と準備を両立できるなら構わねーけど?」
「ウッ……」
土佐辺くんの言葉に、盛り上がっていたクラスメイトたちが急にテンションを下げて項垂れた。
「その点、オレと安麻田は成績上位だ。多少テスト勉強の時間削っても問題ねーよ。なぁ安麻田」
「そんなことは」
「なあ???」
「う、うん」
笑顔の圧が強過ぎて思わず頷いてしまった。
「とゆーワケで、よろしくな」
「う、うん……?」
断ることすら許されず、僕は実行委員の片割れに決定した。なぜ選ばれたんだろうと不思議に思う僕に対し、土佐辺くんはいつも通りの飄々とした態度で握手を求めてきた。
彼とこんなに言葉を交わしたのは小学生の時以来かもしれない。