「あれ、迅堂くん来てないの?」
「今日はバイトの日だよ」
「テスト週間だよね?」
「家に居ても勉強しないからって」
「ええ~……」

 僕の通う高校と亜衣たちが通う高校はテストの日程が一週間ズレている。今週がテスト週間……つまり部活動はお休みして勉強する期間で、来週中間テストが実施される。アルバイトをしている場合ではないと思うんだけど。

「亜衣は勉強しないの?」
「なにが分からないか分からない」
「全然大丈夫じゃないよねそれ」

 亜衣はリビングのソファーに転がってテレビを見ている。教科書の入ったカバンは階段下に置きっぱなしだ。随分と余裕だなと思ったら、始まる前から全てを諦めてただけだった。

「次に赤点取ったら塾に入れるって母さん言ってたのに、いいの?」
「うえぇ、塾なんか行きたくないぃ」
「じゃあ少しは勉強しなよ」
「勉強ってどうやるの?」

 転がったまま手足をバタバタさせている亜衣を見下ろし、途方に暮れる。亜衣が塾に行くようになれば迅堂くんがうちに来る頻度が減る。ただでさえも彼がアルバイトで来れない日があるというのに、これ以上会えなくなったら寂しい。

「土日、一緒に勉強しよう。都合が良ければ迅堂くんも呼んでさ」
「瑠衣が教えてくれるの?」
工科高校(そっち)にしかない学科じゃ役に立てないけど、一人で勉強するよりはマシだと思うよ」
「やったー! 晃にメールするね!」

 よほど勉強のやり方が分からなかったんだろう。亜衣は満面の笑みでスマホを取り出し、さっそく迅堂くんにメールを送っている。