「安麻田」
「なに?」
聞き返すと、土佐辺くんは再びシャーペンを手にしてノートに何か書き込んでいた。
「テーブルクロス班、檜葉に取りまとめ頼んだ」
「引き受けてくれた?」
「ああ。昼休みに話しといた」
「ありがとう、檜葉さんなら安心して任せられるね!」
昼休みに自販機前で鉢合わせた時に頼んでくれたらしい。檜葉さんはクラスの女子のリーダー的存在だ。明るくて社交的で友達も多いし先生たちからの信頼も厚い。きっとうまくやってくれるだろう。
「んじゃ、帰るか」
「うん」
クラスメイトたちはもうとっくに帰っている。教室に残っているのは僕たちだけだ。窓を閉め、施錠をして、並んで昇降口に向かう。そういえば、文化祭の実行委員になってから毎日一緒に帰ってる気がする。歩きながら話す内容も文化祭のことがほとんどだ。
「迅堂たちの高校の文化祭、オレらの二週間前にやるんだっけ。見に行くのか?」
「そのつもり」
「一人で?」
「うん」
亜衣たちのクラスの出し物を覗くだけ。長居する予定はない。ちなみに、あっちの高校は現在テスト週間だ。最近迅堂くんがうちに来ていたのも亜衣と勉強するためだろう。それなのにエッチがどうとかいう話でケンカして。テスト勉強そっちのけじゃないか。
「オレも行く」
「え、行くの?」
「色々見て参考にしたい。情報収集の一環だな」
土佐辺くんは本当に熱心だ。僕には『参考にする』という発想がなかった。同じ実行委員なのに意識が違い過ぎる。
「亜衣たちの出し物以外も見る?」
「そうだな。一緒に行くか」
「うん、行く!」
他校に一人で行くのは怖い。だから、土佐辺くんの誘いに二つ返事で了承した。