「そりゃ興味あるよ。男だからな」

 僕の問いに、土佐辺くんはアッサリ答えた。顔を上げれば、前の席の椅子に後ろ向きに座り、僕の机に頬杖をついた土佐辺くんと目が合った。開け放たれた窓からぬるい風が入り込み、お互いの前髪が微かに揺れる。さっきまでの笑みは消えていて、急に居心地の悪さを感じた。

「好きなヤツが目の前にいれば触りたくなるし、他の誰よりもくっつきたくなる。それが普通だ」
「他の誰より?」
「そう、誰より」

 言いながら、土佐辺くんは右手を僕の顔に伸ばした。視界が彼の手のひらでほとんど遮られる。そのまま固く目を閉じると、彼の指先がチョイ、と僕の額に触れた。

「髪。汗で張り付いてた」
「あっ、ありがと……」

 どうやら汗で額に張り付いていた前髪を整えてくれたらしい。

「迅堂がセックスしたがるのは、おまえの妹が誰かに取られるかもって不安に思ってるからかもしれねーな」
「セッ……え?」
「誰かに奪われるくらいならって焦ってるんじゃね? 妹か本人に聞いてみろよ。多分他のヤツから声掛けられてるんじゃないか?」

 性欲じゃなくて独占欲か。それなら急に迫ってきたことにも納得がいく。

「ありがとう土佐辺くん。色々教えてもらって助かったよ。僕じゃ亜衣の悩みを解決できなくて」
「いいって。だから、もう駿河には聞くなよ?」
「なんで?」
「あの真面目人間にこんな話したら、テスト勉強そっちのけで思春期の心理とか調べ始めそうで怖い」

 もし僕が変なことを聞いたせいで常に学年トップの駿河くんの順位が落ちたら責任を感じてしまう。土佐辺くんの言う通り、駿河くんには聞かないでおくことにした。