いつも飄々としている土佐辺くんが表情を崩したのが面白くて、僕は堪えきれずに笑ってしまった。ひとしきり笑った後で顔を上げると、彼は恨めしそうにこちらを睨んでいた。

「安麻田は駿河とよく昼メシ食ってるけど、今日は中庭まで行くから何事かと思ったんだよ」
「あー……ちょっとナイショの話があって」
「へえ?」

 内緒という言葉に反応した。情報通の性質(さが)だろうか。クラスメイトの内緒話にも関心があるらしい。

「それ、オレが聞いてもいいやつ?」
「うん。男なら誰でも」

 同年代の男子の意識調査なのだから駿河くんに限ったことではない。

「だったらフツーに教室で話せばよくね?」
「だ、ダメだよ! 女子に聞かれちゃう!」
「聞かれたらまずいような話すんの?」
「う、うん」

 本当なら複数の人に聞くべきだけど、僕はそういった話が苦手だし、そもそも気軽に話せるような男友達が少ない。今のクラスなら駿河くんと土佐辺くんくらいだ。

「で、ナイショの話ってなに?」

 土佐辺くんは聞き上手だ。だから色んな情報が彼の元に集まってくるのだろう。

「えっとね……土佐辺くんは女の子とエッチなことしたいと思う?」

 エッチな、という部分だけ声を小さくして尋ねると、彼はブッと吹いた。机に突っ伏し、肩を震わせて笑っている。

「笑わないでよ! 真剣に聞いてるんだから」
「わ、悪い悪い。まさか安麻田からそーゆー話が出るとは思わなかったから」

 僕もそう思う。

「なんでまた……、アレか。妹絡みの話か」
「どうして分かったの!?」
「そりゃ分かるよ」

 小中と同じ学校だったから、土佐辺くんは僕の妹の亜衣(あい)のことも知っている。

「アイツは確か迅堂と付き合ってたよな? となると……」
「察しが良いのはいいけど具体的に想像しないで」

 亜衣と迅堂くんは中学生の頃から交際を始め、高校二年になった現在も続いている。というか、土佐辺くん他校の元同級生のことまで把握してるんだ。すごいな。

「コレを駿河に聞くつもりだったのか? アイツからまともな回答が返ってくるとは思えねーけど」
「だ、だって、他に聞ける人いないんだもん」

 確かに、真面目な優等生タイプの駿河くんにこんな話をしたらフリーズするか説教されるかの二択だろう。