早く何か喋らないと。さっきまで普通に話せていたのに、急に何も言えなくなる。焦れば焦るほど頭が真っ白になって、肝心の質問がどこかへいってしまった。

「どうした。顔が赤いぞ」
「……ッ」

 彼の手が僕の前髪を掻き分け、そっと額に触れる。焦りと緊張で、更に頬が熱くなるのを感じた。早く聞かなければ。

「ひっ、檜葉さんと付き合ってるの?」
「は?」

 あ、間違えた。確かにそれも気になってたけど、聞きたいのはそっちじゃない。どうしよう、土佐辺くんがポカンとしてる。

「なんでそうなる?」
「だって、昼休みに一緒に居たから」
「はぁ~?」

 今度こそ彼は呆れた顔で溜め息をついた。

「たまたま自販機前で一緒になっただけだ。オレが飲みたいやつ、あそこにしか入ってないから」

 自販機は校内の至るところにあるけれど、場所によってラインナップが微妙に違う。確かにあの時、彼が持っていたのは他の自販機に入っていないジュースだった。

「さっきの理屈でいったら、オマエだって駿河と付き合ってることにならねえ?」

 今度は僕がポカンと口を開けた。

「なんで? 男同士だよ」
「……まあ、そーだけどよ」

 男友達とお昼を一緒に食べるのなんか校内でよく見るごく普通の光景だ。女子と二人で中庭を歩いていた土佐辺くんのほうが珍しい。

 そう答えると、彼は気まずそうに頭を掻いた。