「騒がしいのが苦手で、外で遊ぶより教室で本を読んでいるほうが好きで、友だちと話す時も聞き役に回ってただろ。オレとは真逆過ぎて、なんて声をかけたらいいかすら分からなかった」

 仲良くなりたくてもどうしたらいいか分からず、なにもできなかったのだと彼は言う。

「なのに、二人そろって迅堂に惚れて。あの時ほど自分の慎重な性格を恨んだことはない」

 遠足で迷子になった時に探しにきてくれた迅堂くんに、僕と亜衣は惹かれた。当時の土佐辺くんには任された班を放り出す決断ができず、今でも悔やんでいる。

「安麻田が迅堂を見る目がこっちに向けばいいのにって、ずうっと思ってたよ」

 僕と亜衣が迅堂くんを好きになった理由は助けに来てくれたことだけじゃない。騒がしくて苦手だった彼が意外と情に厚くて優しいというギャップとか、気を許した相手にだけ見せる屈託のない表情とか、小さなことの積み重ねだ。もちろん遠足の件は大きな切っ掛けではあったけれど。

 あの時に助けに来たのが土佐辺くんだったら、僕たちはどうなっていただろう。

「待って。じゃあ、土佐辺くんは遠足の前から僕が好きだったの?」
「うん」
「全然知らなかった……」
「気付かれないようにしてたから」

 感情を隠すのが下手な僕と違い、土佐辺くんは上手く隠せていたと思う。小中高と同じ学校だというのに、ほとんど接点がなくて分からなかった。むしろ嫌われているとさえ思っていた。それを踏まえて今回の件を思い出すと、色々と腑に落ちる。

「前に『好きな人が目の前にいれば触りたくなる』って言ってたの、それも僕?」
「二人きりの教室であんな話題になって、抑えるのにどれだけ苦労したか」

 それだけじゃない。土佐辺くんにはエロ本話でからかわれたり、部屋で二人きりになったりしている。あの時から彼はずっと僕を意識していたのか。

「あれ、僕、もしかしてニブい……?」
「安麻田は鈍いままでいい。でないと、オレに余裕ないのがバレちまう」

 ここまで暴露した癖にまだ取り繕おうとする姿が可愛く思えて、僕は彼を抱き締め返した。