翌日の放課後、一緒に帰りながら昨夜のことをぽつぽつと話す。僕が話をする間、土佐辺くんはずっとソワソワしていた。この話題になってから土佐辺くんは一度も笑顔を見せていない。
「すっきりした顔してるな。泣くかと思ってた」
「振られることは確定してたし、迅堂くんから嫌われずに済んだから、むしろ嬉しかったよ」
長年思い悩んでいたけれど、いざ打ち明けてみれば案外平気でびっくりしている。
「土佐辺くんが居なかったら一生言えなかったよ。ホントにありがとう」
晴れやかに笑う僕とは逆に、土佐辺くんは複雑な表情を浮かべている。僕が無理やり明るく振る舞っていると思っているのだろうか。
「どうやって慰めようか色々考えてたんだけど、もしかして必要ない?」
「もっと落ち込むかと思ってたけど、迅堂くんが拒絶しないでくれたから意外と平気。だから大丈夫」
「そうか」
泣いたり弱音を吐いたり、彼には情けないところばかり見られている。今回も泣くほど落ち込むと思われていたようだ。
「慰めなくてもいいけど、気分転換したいかな」
「じゃあ、今日俺んち来る?」
「迷惑じゃなければ行きたい」
土佐辺くんが小さくガッツポーズした。言動の端々から好意が伝わってくる。八年モノの恋が破れたのに落ち込まずに済んでいるのは、きっと彼がそばに居てくれるからだろう。
「この前貸した本は読めた?」
「実は借りた翌日に全巻読破してる」
「そうだったの?」
「安麻田の好きなものを早く知りたくて。あと、すぐに返したら行き来する理由がなくなる気がして先延ばしにしてた。悪い」
告白以来、土佐辺くんは気持ちを隠さない。言葉と態度で分かりやすく示してくれる。どうしてここまで好かれているのか不思議なほどに。