「駿河くんと安麻田くんて、いつもお昼一緒よね。仲良いんだ」

 土佐辺くんはクラスの女子、檜葉(ひば)さんと一緒だった。体育館のそばにも自販機があるから、きっとそこへ行った帰りだろう。二人とも手に紙パックのジュースを持っている。

「俺たち小学生の頃から同じ学校なんだ」
「ふうん、そうだったの」
「俺だけじゃない、土佐辺もだ」
「そー、小学校からの腐れ縁てヤツ」

 うちのクラスで小学校から一緒なのは僕たち三人だけだ。檜葉さんの疑問に駿河くんと土佐辺くんが答える間、僕は何も言えなかった。タイミングがズレていれば、女の子に卑猥な話を聞かれてしまうところだったのだ。危ない危ない。

「安麻田くん、顔真っ赤だよ。やっぱり中庭(ここ)暑かったんじゃないの?」

 フフッと口元を手で隠しながら檜葉さんが笑うと、緩く結われた長い髪とスカートが揺れる。半袖の制服から伸びる細い腕は夏の終わりだというのに全く日に焼けていなかった。

「う、うん。そうみたい」

 女の子は居るだけで場が華やぐ。
 声も仕草も可愛くて男とは違う。

「食い終わったなら戻ろうぜ。次は移動教室だぞ」
「そうだな。行こう安麻田くん」
「うん」

 焼きそばパンの包装紙をたたんでポケットにしまい、先に歩く土佐辺くんと檜葉さん、駿河くんの後を追い掛ける。

 途中、ちらりと檜葉さんが後ろを振り返り、僕を一瞥してクスッと笑った。口の周りにパン屑が付いてたかな、と慌てて口元を拭うと、彼女は目を細めてから土佐辺くんと駿河くんの間に滑り込んで腕を組んだ。

「檜葉、暑い」
「いいじゃない。いや?」
「お、俺は構わんが」

 嫌そうにする土佐辺くんと、やや顔を赤らめて動揺する駿河くん。一人置いていかれた僕は、三人の後ろを少し離れて着いていくしか出来なかった。

 結局、駿河くんに聞けず仕舞いだ。
 なんのために中庭まで連れ出したのか。

 ──あ、そうか。
 土佐辺くんに聞けばいいんだ。