迅堂くんに連絡をして、バイトが終わった後に時間を作ってもらった。

 ひと気のない夜の公園の片隅。街灯に照らされたベンチに座って待っていると、ものすごい勢いで走ってきた自転車が目の前で急停止した。迅堂くんだ。

「瑠衣、待たせたな」
「ううん。ごめんね急に呼び出して」
「なんだよ他人行儀だな。構わねーよ」

 バイトで疲れているだろうに、迅堂くんは嫌な顔ひとつせずに笑顔を見せてくれた。彼が優しい理由は僕が小学生の頃からの付き合いで、亜衣(恋人)の兄で、気心が知れている相手だからだ。

 想いを告げれば、僕だけではなく亜衣との関係にも悪い影響が出てしまうかもしれない。それでも黙って終われなかった。ぜんぶ僕の身勝手な我儘だ。打ち明けると決めた今でもまだ踏ん切りがつかず、声が震える。

「話ってなに? 家じゃマズいの?」
「うん。二人だけで話がしたかったから」

 いつもとは違う雰囲気を感じ取ったか、迅堂くんは自転車から降りて僕の隣に座った。錆びたベンチが軋んだ音を立てる。

「なんかあったのか? 力になるぞ」
「大丈夫だよ」
「文化祭の時だって衣装がボロボロになってただろ。もしかして、誰かにいじめられてるんじゃないだろうな」
「そんなことないよ、大丈夫」

 そういえば、文化祭での惨状を見られていた。本気で心配されていると分かり、なんだか嬉しくなる。

「迅堂くんはいつも僕たちを助けてくれるよね」
「当たり前だろ。見て見ぬフリなんかできるか」

 彼は困っている人に手を差し伸べる。理由なんかない。恩に着せることもない。だから、無性に惹かれてしまうのだ。