「安麻田が迅堂に惚れてるのは知ってる」
「えっと、」
「三年の遠足の時、迅堂が助けに行ったのが切っ掛けってのも知ってる」
「う、うん」
どうして今ごろ八年前の話をするんだろう。どうして彼は辛そうな顔をしているんだろう。意味が分からず、次の言葉を待つ。
「あの時、オレは別の班の班長で、仲間を置いて探しに行くっていう選択ができなかった。でも、同じ立場の迅堂はおまえらが居なくなったって聞いた瞬間ぜんぶ放り出して探しに行った。……オレが助けに行きたかった」
井手浦先輩から助け出された後にも似たようなことを言われ、その時は意味が分からなかった。土佐辺くんが抱える『あの日』の後悔。迷わず動いた迅堂くんに対し、彼はずっと羨望と焦燥を抱いていた。
「……安麻田が好きなんだ。実行委員は一緒に居るための口実だった」
告白されたのだと理解した瞬間、心臓が大きく跳ねた。なんと答えればいいのか分からず、ただ黙って彼を見つめる。
「こんな役目は苦手だろうに一生懸命頑張ってくれて、諦めようとしたのにもっと好きになった。言っても困らせるだけって分かってたのに、悪い」
いつも冷静で落ち着いている土佐辺くんがたどたどしい言葉で気持ちを伝えてくれている。それがどれだけ勇気と覚悟が要ることなのか、僕はよく知っている。知っているからこそ、簡単には応えられなかった。
「土佐辺くん、ごめん」
「……ッ」
開口一番で謝罪すると、彼はビクッと肩を揺らして辛そうに俯いた。しまった。今の言い方では誤解を招く。
「ええと、そうじゃなくて、僕は器用じゃないから気持ちの切り替えがすぐにできないんだ」
「切り替え?」
土佐辺くんが不安そうに顔を上げた。僕の言葉ひとつで感情を左右されてしまっている。
「僕はなんにもしないまま迅堂くんに八年も片想いしてきた。その気持ちにカタをつけてくる」
「男らしいな」
「勇気をくれたのは土佐辺くんだよ。君が『恥じるな』と言ってくれたから、もう自分を卑下したりしない。後ろめたいことだと思わない。迅堂くんに伝えて、きっぱり振られてくる」
単なる自己満足で、迅堂くんにとっては迷惑な話かもしれない。でも、区切りをつけなければ。
「振られたら、慰めてくれる?」
「任せろ」
前に進むため、僕は全てを明かす覚悟を決めた。