騒動の後、僕たちは教室に戻った。

 土佐辺くんは衣装の破損が激しいため、下はジャージ、上は黒いTシャツ姿で調理係に回された。僕は入り口で受付をしてお客さんを席に案内する係になった。

 普通は段々と客足が減っていくものなんだけど、うちのクラスの『男装&女装カフェ』に限っては逆。休憩で立ち寄るのにちょうどいい立地らしく、食材が尽きるまでお客さんは途絶えなかった。

 文化祭閉幕後、一般のお客さんが帰ってから片付けをする。終わってしまえばあっという間で、なんだか寂しくなってきた。実行委員の仕事はもう終わり。明日からは土佐辺くんと放課後に打ち合わせをすることも無くなる。

「終わっちゃったね」
「終わったな」

 着替えのために別室に移動するみんなを見送り、元通りに並べられた机や椅子を眺めた。夕焼けの色に染まった教室が寂しさを際立たせている。この空間から出たら、本当に文化祭が終わってしまう。なんとなく離れがたくて、僕たちは教室の隅っこに立ち尽くした。

「大変だったけど、楽しかった」
「ああ、楽しかったな」

 今までクラスを取り仕切った経験はない。自分には向いていないからと言い訳して挑戦すらせず、いつも誰かに任せてきた。そんな僕に土佐辺くんが声を掛けてくれた。彼がいなければ、こうして学校行事の終わりを惜しむ気持ちにはならなかっただろう。

「どうして僕を実行委員に誘ってくれたの?」

 前にも聞いた質問をもう一度彼に問う。はっきり言えば、適任者は他にもいた。僕でなければならなかった理由はない。

「安麻田と仲良くなりたかったから」
「え?」

 土佐辺くんの答えは以前とは違った。驚いて顔を上げると、彼の顔が赤く染まって見えてドキッとした。夕焼けの色がそうさせているのだ。