「さっきの啖呵、凄かったな」
「土佐辺くんも。まさか助けに来てくれるなんて思わなかったよ。ヒーローみたいでカッコ良かった」
素直な感想を伝えると、土佐辺くんは少しだけ寂しげな表情を見せた。
「……あの時も、オレが助けたかったよ」
「え?」
なんのことだろう。彼はいつも僕のピンチに駆け付けてくれているのに。詳しく聞こうとしたら教室の戸が勢い良く開いた。
「あなたたち、ボロボロじゃないの!」
「あーあ、こりゃヒドいわね」
入ってきたのは檜葉さんと亜衣、そして迅堂くんだった。控え室に入ってから、土佐辺くんがメールで連絡していたらしい。ここに来る途中で亜衣たちに会い、一緒に来たんだとか。僕たちの格好を見て、三人は驚いている。
「悪い。色々あって服がダメになっちまった」
「ひどい有り様ね。お客さんの前に出せないわ」
「この後接客のシフトが入ってるんだが、どうしたもんかな」
シフトを変わってもらうと他の人たちの自由時間が減ってしまう。『男装&女装カフェ』ではあるが、制服かジャージに着替えて接客するしかないだろう。土佐辺くんは早速自分のカバンからジャージを取り出している。
「亜衣、ごめん。ニット駄目にしちゃった」
「んも~、なにをどうしたらこんなになるワケ? ま、色違いあるからいいけどぉ~」
その色違いは亜衣が今着ているものだ。
「あ、コレ着る~? アタシ、下にチューブトップ着てるから」
「「駄目だ!」」
その場で脱ごうとする亜衣を僕と迅堂くんが同時に止める。亜衣は不満げに唇を尖らせるが、すぐになにかを思い付いたようで、土佐辺くんに向き直った。
「長袖のジャージ持ってる? 貸して!」
土佐辺くんから借りた長袖ジャージの上着は僕が着ることになった。体格差があるので袖が余って手が出ない。ダボッとしたジャージからチラリと覗く膝丈スカート。さっきの服装より露出はかなり減っている。
「どぉ? 『萌え袖』プラス『彼氏からジャージ借りた彼女』感あるでしょ?」
「いいわね。安麻田くん、これで出ましょう」
「ええ……こんなんでいいんだ」
確かに以前『露出少なめでゆったりした服がいい』とは言ったけど、これは女装と言えるのだろうか。
「瑠衣、似合ってるぞ。なぁ土佐辺!」
迅堂くんが同意を求めると、なぜか土佐辺くんは両手で顔を覆い隠していた。どういう反応?