そのまま土佐辺くんは二階の窓から飛び降り、僕と先輩の間に着地した。タイトスカートはスリット部分が大きく裂け、黒いストッキングに包まれた脚が見える。
「今のやり取り撮らせてもらった。脅迫と暴行未遂。下手すりゃ退学になるかもな? 井手浦」
「またおまえか……!」
土佐辺くんが手にしたスマホ画面をタップすると、先ほどの先輩と僕のやり取りを上から撮影した動画が再生された。まるで先輩が女の子を無理やり襲い、服を破っているように見える。
「安麻田、大丈夫か」
「う、うん」
引っ張られて襟元が伸びたニットは腰の辺りまで落ちてしまっている。上半身裸のまま立ち尽くす僕に、土佐辺くんは自分が着ていたスーツの上着を貸してくれた。
「警察に突き出してやりたいところだが文化祭の真っ最中だ。今回だけは見逃してやる。金輪際コイツと妹に近付くな。大学の推薦を取り消されたくはないだろ?」
「くっ……!」
騒ぎを聞きつけたギャラリーが集まってくる。先輩は下唇を噛み、逃げるようにこの場から立ち去った。後に残された僕たちは互いの服が悲惨なことになっていることに気付き、すぐに校舎内へと逃げ込んだ。人目を避けながらクラスの控え室に入り、戸を閉めて床にへたり込む。
「はぁ~……今度こそもうダメかと思った」
「オレもちょっと無茶した」
「ホントだよ! 二階から飛び降りるなんて」
土佐辺くんを見れば、タイトスカートだけではなくストッキングもところどころ破れていた。足を少し痛めたみたい。僕を助けるために彼はボロボロになっていた。
「ホントはもう少し早くに助けに行けたんだけど、決定的な証拠が欲しくて上から様子を見てた。怖かっただろ」
「大丈夫。でも、よく僕の居るところが分かったね」
先輩が人を使って僕を誘き寄せたのは少し入り組んだ校舎の陰。すぐに見つけられないような、ほとんど人が通らない奥まった場所だ。
「詰め所でメガネから『井手浦が来てる』って教えてもらったから、メイド喫茶への案内は途中で他のヤツに任せてすぐに後を追い掛けたんだ」
「そうだったんだ」
話し掛けられていたのはその件だったのか。いつの間にかメガネの先輩も土佐辺くんの情報源に加えられている。