「今度女の子の格好でデートしようよ。俺がもっと可愛い服買ってあげる」
笑ってるし口調は柔らかいのに、何故か背筋が寒くなった。
「僕は、先輩のオモチャじゃない……!」
「オモチャだよ。なんだかんだ言って俺のそばに来るのは本気で嫌がってないからじゃない? 瑠衣くんが俺のものになるなら亜衣ちゃんから完全に手を引いてあげる」
また脅し。やっぱり先輩は少しも反省してなかった。僕は亜衣の身代わり。着せ替え人形くらいにしか考えてない。取り引きに応じても無駄だ。それに、今いる場所は前回のような誰もいない空き教室ではない。本気で抵抗すれば逃げられる。
「おっと。動くと服が脱げちゃうよ」
「……ッ」
先輩がオフショルダーのニットの肩口を掴んだ。このまま下がれば服が破れるか脱げてしまうが、もう構ってはいられない。
「僕は男です。上半身ハダカになったって恥ずかしくないですから!」
ごめん、亜衣!
先輩の胸元に置いた手を突っ張り、勢い良く後ろへと身体を引き離す。その拍子にニットが伸びて下がり、肩や胸元が露わになった。
「……瑠衣くん、亜衣ちゃんの彼氏に気持ちをバラしてもいいの? 今の関係が崩れちゃってもいいの?」
「好きにしたらいいじゃないですか。僕はもう脅しには屈しません!」
今までは迅堂くんに気持ちを知られるのが怖かった。それは、心の何処かで自分の気持ちが間違ってると思っていたから。
でも、土佐辺くんは『恥じるな』と言ってくれた。否定せずに受け入れてくれた。だから、もう卑屈になるのはやめる。
「よく言った、安麻田!」
上から降ってきた声に顔を上げれば、校舎の二階の窓枠に土佐辺くんが足を掛けている姿が見えた。