文化祭が始まり、一般のお客さんの入場が始まった。僕と土佐辺くんは午後から実行委員のパトロールの予定が入っている。みんなが接客や給仕に慣れるまではクラスの手伝いをする予定だ。シフトに入っている人は店員の目印として全員腕に腕章を付け、首から名札を提げている。
「いらっしゃいませー!」
廊下にいる呼び込み係がお客さんを連れてくる。男装&女装姿の店員に驚く人、喜んで写真を撮る人など反応は様々。飲食のほうも、ホットプレートで手軽に用意出来るものばかり。メニューは工科高校の文化祭を参考にさせてもらった。
「瑠衣~、遊びに来たよ~」
「亜衣、それに迅堂くんも来てくれたんだ!」
オープンから一時間ほど経った頃、二人が一緒にやってきた。亜衣は僕と色違いの服を着ている。小学生の頃以来の双子コーデだ。盛り上げるためにわざと同じデザインの服を着てきたな。
「安麻田くんの妹さん? そっくりね!」
「ツーショット写真撮ってあげる!」
「ありがとーっ! 撮って撮って~!」
接客そっちのけでクラスの女子がスマホを向けた。亜衣はお客さんの立場なんだけど、居合わせた他のお客さんからも余興のひとつだと勘違いされている。
「ずいぶんと気合い入ってんなぁ」
「オレは学校行事でも手は抜かねーからな」
仁王立ちで出迎えたタイトスカートの土佐辺くんを見て、迅堂くんはやや引いていた。すぐに僕と亜衣のほうに向き直り、他のお客さんたちに混じってスマホを構える。
「うん、可愛い可愛い」
「でしょー! もっと撮って晃!」
「おい、オレも撮れよ」
「割り込むな土佐辺」
亜衣に腕を組まれ、苦笑いを浮かべて撮影に応じる。適当なところで切り上げ、二人を席に案内して注文を取る。
「ワッフルとパンケーキ、どっちにしよう」
「両方頼んで半分こすればいい」
「ありがと晃!」
今までは二人のやり取りを見て胸が痛くなったけど、今日はなにも感じなかった。諦めると決意したからだろうか。溜め込んできた想いを先輩や土佐辺くんに知られ、正直に打ち明けたたことで解放されたのかもしれない。