誰にも言わなかったのに、僕の気持ちは知られていた。疑問に思って尋ねてみれば「小学生の頃から」と言われ、苦笑いを浮かべる。やはり僕は相当分かりやすいらしい。

「流石に、あの頃から今までずっと好きだとは思ってなかったよ。でも、文化祭に一緒に行った時に分かった」

 先輩に隠し撮りされた写真を見なくても、お化け屋敷から出た後、迅堂くんが出て少し話をした場には土佐辺くんも居合わせていた。

「僕、おかしいよね。迅堂くんは亜衣と付き合ってるのにまだ好きなんて。そのせいで先輩にバレて、脅されちゃって」

 震える声で弱音をこぼせば、土佐辺くんは首を横に振って否定した。

「オレが着く前に変なことされなかった?」
「だ、大丈夫」
「それなら良かった」

 下腹部を触らられそうになったとは言えない。なにもなかったと聞いて、土佐辺くんはホッと息を吐き出した。

 しん、と空き教室が静まり返る。土佐辺くんと並んで床に座り、どこからか聞こえてくるざわめきに耳を傾ける。午後の授業が始まったのだろう。廊下を歩く足音はしなくなった。沈黙が気まずい。なにか話さなくては、と思えば思うほどうまく頭が回らない。

「あの、本当にごめんね。僕のせいで」
「なんで謝るんだよ。安麻田は被害者だろ」
「でも、」

 僕が普通に女の子に恋をしていたらこんなことにはならなかった。同じ男、しかも双子の妹の彼氏が好きだなんて。人には言えないような想いを抱いていたから付け込まれてしまったのだ。

「誰を好きになろうと安麻田の自由だろ。妹から奪おうとしたわけでもないのに他人からとやかく言われる筋合いはねぇ」

 うつむく僕を励ますように、土佐辺くんが強い口調で言い切った。

「だから、恥じるな。好きだって気持ちを間違いだなんて思わなくていい」
「……っ」

 この恋心を知られたら、嫌われたり気持ち悪いと罵られると思っていた。でも、土佐辺くんはありのままを受け入れてくれる。励ますような言葉をくれる。心から僕を心配してくれているのだと伝わってくる。

「なんでそんなに優しくしてくれるの」
「……友だち、だろ。当たり前だよ」
「うん。土佐辺くんが居て良かった」

 また涙をこぼす僕を見て、土佐辺くんは「さっきより酷い顔だな」と肩を揺らして笑った。